【黄禹錫】盧武鉉の青瓦台サイトへの寄稿

前々回ご紹介したNEWSisの記事中に出て来た,盧武鉉が青瓦台(大統領官邸)のwebサイトに寄せたという文章の訳出がまだでしたので載せておきます.




黄禹錫教授の幹細胞に関し,MBC PD手帳で取材をするという報告があった.初めの取材方向は 研究そのものが虚偽だというものだった.そしてその事で黄教授がひどく心を痛めているというものだった.何とも馬鹿げた事だった.


数十名のa0026107_16165420.jpg教授・博士らが黄教授と示し合わせて詐欺劇を演じており,世界がその詐欺劇に翻弄されていたとでも言うのか.到底納得の行かない事だった.かと言って大統領である私が出て行ってああのこうの言うわけにも行かなかった.残念で歯痒い事だが,経過を見守るしかなかった.


暫くして,卵子寄贈をめぐる問題が報道され始めた.そうして数日後,科学技術補佐官がMBC PD手帳で卵子寄贈問題を取材したが,その過程で取材態度が威圧的でありかつ脅迫すら行うこともあって,研究員らが苦痛と不満で以後とが不安で仕事が手につかないという報告もある中,何らかの対策を論議して来た(訳註:このセンテンス,組み立てがヘンで誰が誰に報告したのかがどうも不明瞭だが,ここでは「MBC PD手帳で…手につかない」を補佐官が大統領に報告した,と読んでおく).この席で取材の動機と方法に関しても様々な話があった.もちろん好意的な話ではなかった.


そしてその後,盧聖一院長の記者会見,MBCの報道があって,それに続いて黄禹錫博士の記者会見で真摯な解明と公職辞退宣言があった.概ね諒解がなされたかに見えた輿論の反応を見ながら,この過程が苦痛を伴う辛いものではあっても,これを契機に我が社会が倫理基準を整備し,二度とこうした混乱を起こさないようになれば,それ相応の代価を払う甲斐があるだろうという気がした.


そして研究については,上手くやれば転禍為福(訳註:「禍転じて福と為す」のこと)ともなり得るだろうな,という気もした.国民らの熱い支持があった.皆がこうして力を合わせれば,国際的な信頼回復の問題も克服が可能だろうと思えた.


こういった程度の過程で事態が収拾されるのが適切だと思った.だが翌朝起きてみると,事態はあらぬ方向に流れていた.MBC PD手帳が袋叩きに遭っているというのだ.いや単に袋叩きなどというものではなく,スポンサー12社中11社が広告契約を取り消したというのだ.ひどいと思った.


私もMBCのこの記事(訳註:記事ではなく放送番組だが)には腹が立つ.それに取材のきっかけや報道に関しても,あれやこれや疑わしい話も聴いた.それに研究過程の倫理に関して警覚心を喚起する方法が実際こうまで苛酷でなくてはならない必要があるのかという気もした.


しかし,いざMBCのこの報道が袋叩きに合う様子を見ると,また違った心配で気が気でなくなって来た.寛容というものを知らない我が社会の姿が心配だ.批判を許さない画一主義が圧倒する時,人間はいつも恥ずべき歴史を残した.


抗議の文章や電話くらいならあってもよい事だろう.それくらいは取材陣や言論社(訳註:新聞社・出版社・放送局などメディア全般を韓国語では単に「言論」と呼ぶことが多い)の良心と勇気で切り抜けるべき事だ.(訳註:ところが今回の一件では)抵抗を許さない社会的恐怖が形成されているのだ.この恐怖は,これからも多くの取材陣らを萎縮させるタブーとして作用するかも知れない.


各自に自らの分というものがある.メディアはメディアのやるべき事がある.それを認め尊重することを知る社会が民主主義社会だ.互いに異なる考えが認め合われ,牽制と均衡を成す時,常識の通じる社会が作られる.


こうした心配をしていたところに嬉しい記事を一つ見つけ,多少気持ちがほぐれる.「歪んだ愛国主義が浸透する」というハンギョレ新聞の記事だ.「ああ,それでも我が社会に批判的精神は生きているのだ」.もちろんハンギョレも良い時より不満な時の方がずっと多い.新聞だから.それでも私はこうした記事に未来を見る.嬉しさついでにハンギョレの記事全文を紹介する.


2005年11月27日
大統領 盧武鉉


大統領専用パソコンニダ 通常の3倍速いニダ 誇らしいニダ ホルホル もとい,原文では このすぐ下にハンギョレの記事が囲みで続くのですが,そちらは後回しにして ひとまずここで切ります.


ここでいったん時系列を整理しておきたいのですが,「PD手帳」が「黄禹錫神話の卵子疑惑」を報じたのが今月22日.ミズメディ病院の盧聖一が卵子売買に関与していた事実を認める記者会見を行ったのも同22日.黄禹錫の記者会見が24日.そして上の盧武鉉の文章がネットに上ったのが27日.


ところが,昨日ご紹介したNEWSisの記事では,黄禹錫のES細胞製造そのものが虚偽だとする疑惑が「明示的に明らかに」なって行く その途上に この27日の盧武鉉の文章を位置付けているのが どうもヘンな感じ.24日の黄の記者会見ではどうやらES細胞そのものの真偽については示唆的に言及する質問しか無かったようですが,では22日の「PD手帳」ではそのことにどの程度触れていたのかが気になるところ.


気になるといえば もう一つ,昨日少し触れましたが 黄禹錫が売買卵子を実験に用いていた事実を24日の記者会見の席上で認めたとする報道は 記者会見直後には見当たらず,私が最初に拾ったのが27日の時点(但し記事のタイムスタンプはあくまで24日付).この点も未だに腑に落ちない.



文中,盧武鉉も当初「PD手帳」の番組制作の姿勢についてあまり良い印象は持っていなかった旨の記述がありますが,
盧武鉉に同番組に関する報告をしたという「科学技術補佐官」なる人物が どうも結構な曲者らしく,
最前から触れています所の「保健福祉部の幕引き動向」なども この人物との絡みが背景にありそうな感触.
この補佐官については多分後日もう一度触れることになるかと思います.


それにしても,


批判を許さない画一主義が圧倒する時,人間はいつも恥ずべき歴史を残した.


互いに異なる考えが認め合われ,牽制と均衡を成す時,常識の通じる社会が作られる.

だそうですよ.その言や佳し.ひとたび「親日派」の烙印を押されれば法の庇護のもとでの訴訟も起こせない何処かの国の大統領に聴かせてあげたいものです.わはははは.


で,盧武鉉おすすめのハンギョレ(ハンギョレだというのが 如何にもねw)の記事ですが,こんなの:



「PD手帳」にサイバー袋叩き … 「歪んだ愛国主義」浸透

黄禹錫教授チームの倫理問題をめぐる論乱が非理性的な方向に流れている.


一部ネティズンらは22日,黄教授チームの卵子採取問題などを報じた「PD手帳」に対し,魔女狩り式の攻撃に出た.また黄教授チームに対し問題を提起したことを「売国」行為だとして詰め寄る流れが形成されつつある.これに対し,メディア学者など専門家らは,社会の水準を1次元引き上げるには非理性的・感情的愛国主義に陥らずに理性的に問題を省察する態度を持たなくてはならないと指摘した.


24日,黄教授の記者会見を通じて「PD手帳」の報道内容が相当部分事実と確認された.だが,多くのネティズンらは同番組に広告を出している企業のリストや電話番号をインターネット上に掲載し,「不買運動」に乗り出すと主張した.こうした主張が大きな呼応を得る中,各企業に抗議の電話などが殺到し,25日には同番組のスポンサー12社中11社が広告中止を要請した.


ネティズンらはまた,インターネットに同番組の担当であるH某プロデューサの家族の写真を公開し,「家族を皆殺しにせよ」などといった文章を投稿した.これに因って,同プロデューサの家族らは外出も出来ずにいる.黄教授に関連して倫理問題を提起して来た民主労働党の掲示板にも,この日午後現在200件以上の非難の書き込みがあった.


専門家らは,ネティズンらが匿名性を楯に感情的民族主義を噴出させているとして,此処には黄教授の研究の功禍を慎重に論じることの出来ないメディアの態度がこうした過激な反応を焚き付けている側面もあると診断した.


閔ギョンベ・キョンヒ(訳註:人名・大学名など漢字標記不詳.以下同様)サイバー大エンジオ学科教授は「ネティズンらの反応が,事案の実態に焦点を当てるのではなく,事案を報じた特定報道を仮想敵に設定して これを攻撃することで感情的な民族主義を排泄する方向に向かっている」として「サイバー上の匿名性を利用して輿論煽りに同調するよりは,事実と意見を正確に分離して判断する努力が必要だ」と指摘した.


崔ヨンムク・ソンゴンホェ大教授(原文註:新聞放送学)は「そもそもメディアが黄禹錫教授の卵子についての疑惑を全く採り上げずに称揚一色で『黄禹錫シンドローム』ばかりを育てて来たのが問題」だとして「国民らが『PD手帳』に対して示した盲目的かつ国粋的な反応の責任は,結局1次的にメディアにある」と指摘した.金ドンミン・ハンイルジャンシン大教授(原文註:韓国言論情報学会会長)は「『PD手帳』の報道は,メディアの責務である批判機能に従って当然報道されるべきであった事案だと思う」として「今この場では批判が噴出しても,長い目で見れば黄教授の研究に健康さを補うきっかけになるだろうし,国民にも役に立つだろう」と述べた.


漠然たる国益論争よりは,倫理問題や女性の健康権など重要な事案について腰を据えた論議をすべきだという提案も出ている.片手を失い障害者となった金ジュンベ(原文註:米ピッツバーグ大リハビリ技術学科研究員)博士は,この日「オーマイニュース」に寄稿した文章の中で自らが「幹細胞研究により大きな恩恵を受け得る隻手損傷人」だと明かし,「個人的には幹細胞研究を支持するが,人権と倫理問題を無視して無条件に卵子を寄贈しようという雰囲気を造成する事は明らかに再考すべきだ」と指摘した.



これはひょっとしたら驚くべき事かも知れませんが(笑),韓国の民族主義が「歪んでいる」という自覚はあるのですね,韓国人にも.
プロデューサの家族の写真をネットに晒して「皆殺し」を呼び掛けるくらいは朝飯前かと思っていました.
何しろ他国の県議会に乗り込んで刃物を振り回すような国民ですので.


前回採り上げたMBC内部の「続報」賛否論議にしても 今回のメディア専門家らのコメントにしても そうですが,
「真実を伝える」ことや「非理性的・感情的愛国主義に陥らずに理性的に問題を省察する態度」の重要性は,
こうやってしばしばもっともらしく韓国人の口の端に上るのですが,
彼らがこの態度で自国の歴史を眺められるようになるには おそらくあと100年や200年では足りないでしょう.



(12/01 誤字訂正)
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by xrxkx | 2005-11-30 16:13 | ◆ 黄禹錫 / 卵子売買