【黄禹錫】事はもう「卵子不法売買」だけでは済みませんよ

このネタ,まだあと何回か続きそうなので別カテゴリを立てることにしました.最近何でもかんでも「時事ネタ一般」に放り込んでばかりで カテゴリ分類がイマイチ用をなしていないしなぁ.良くないな.後で適宜直します.



さて,先般の韓国での卵子不法売買騒ぎが その後大方の予想通り黄禹錫周辺の倫理問題に飛び火していることは 少し前に書きましたが,黄禹錫サイドの記者会見 および保健福祉部(日本の厚生労働省に相当)の調査結果というのが かねてからのアナウンスどおり昨24日に出ました.




黄禹錫教授「卵子疑惑 全責任は私が負う」 (韓国経済新聞 11/24 17:56)

ジェラルド・シャッテン 米ピッツバーグ大教授の決別宣言に端を発する黄禹錫ソウル大碩座教授チームの「卵子疑惑」について,保健福祉部が24日「法と倫理準則の違背は無かった」とする見解を示した.


これにより,黄教授は倫理論乱に関連した「重荷」を相当部分降ろすことになった.


だが,黄教授がこの日ソウル大獣医科大(訳註:獣医学部)で開いた記者会見を通じて「倫理疑惑に関する事実関係を知りながら否認して来た」ことを認めたことから,研究者として透明であり得なかったという負担はなお残ることになった.


特に黄教授が世界幹細胞ハブ(訳註:おそらくこれ自体が研究機関名)所長職を退くと公表し,これまで世界をリードして来た我が国の胚芽幹細胞研究の地位も打撃を蒙ることになった.


◆黄教授チーム研究どうなる = 黄教授は「研究現場までも去るというのは国民の尊い声援に応える途ではない」として,今後研究のみに専念する意向を覗かせた.これに伴い,世界幹細胞ハブは国民的支持を背景にこれまで通り研究や活動を続けるものと見られる.後任所長にはハブの主軸の一人である安ギュリ・ソウル大医大教授が有力視されている.


ただ,黄教授がチーム内の女性研究員の卵子寄贈をかねてから知っていながらこれを一貫して否認して来たという点で,科学者としての正直さや透明性については国内外から攻勢を受けるものと予想される.特に黄教授チームの胚芽幹細胞研究について賛辞を送りながら一方では牽制して来た海外科学界の攻撃が憂慮されている.


これに関連して,黄教授チームの倫理疑惑を立て続けに提起して来たイギリスの科学雑誌「Nature」は最近韓国経済新聞とのEメールインタビューを通じ,「もしも黄教授が研究員の卵子を使用していたことが明らかになれば,彼が何故そのことを(原文註:以前に)否認していたのかが重要な問題となるだろう」として,黄教授チームの透明性を問題として採り上げることを示唆した.ソウル大の或る教授は「海外研究陣らが道徳性を楯に取って黄教授チームを牽制して来る可能性も少なくない」と述べている.


◆論文どう処理される = 2004年 黄教授チームの複製胚芽幹細胞(訳註:「ES細胞」のこと)論文を掲載したアメリカの科学雑誌「Science」側の措置如何は,黄教授チームに相当な影響を与えるものと見られる.


これに関連して,ドナルド・ケネディ Science誌編集長は「(原文註:黄教授の)主張が誤りだと立証されれば訂正報道を行う」としつつも「研究が有効でないという情報を持ってはいない以上,論文取り消しの要求はしない」と表明した.


これに伴い,論文そのものが撤回される状況は発生しないものと見られる.だが,Science誌が黄教授チームの透明性を深刻に批判し,訂正報道や論文修正を行った場合,黄教授チームの信頼性は或る程度打撃を受けざるを得ないというのが科学技術界の専門からの見方だ.


◆再跳躍のきっかけにすべき = 今回の事態をきっかけに,国内研究陣らが倫理問題を完全に払拭して研究に一層拍車を掛けるべきだというのが専門家らの一致した声だ.ニューロジェネクスのシン・ドンスン社長は「研究倫理を国際基準に合うよう一新し,今後も素晴らしい成果を出してもらいたい」と述べた.




「これまで世界をリードして来た我が国の胚芽幹細胞研究の地位も打撃を蒙る」だの「黄教授チームの胚芽幹細胞研究について賛辞を送りながら一方では牽制して来た海外科学界の攻撃が憂慮されている」だのと,この期に及んでなおちっぽけな優越感に縋り付きたがるかの国民の性根の卑しさは百回嘲笑っても余りありますが,そんなのは日本人のあずかり知らぬ事.
今回私が注目したいのはそこではありません.

まず,もともと今回の騒ぎの初期段階に於いては「ネット上で不法に売買されていた卵子を黄禹錫らが実験用に入手した事実はあったのか」が焦点だった筈なのに いつの間にかその点が有耶無耶になってしまっているのが気にならなくもありませんが,これはまぁ無理からぬ事.
今回,「実験用卵子の提供者は研究チームの身内にいた」こと,および「それを以前から知っていながら隠していた」ことを黄禹錫が自ら白状したことで,当初とは別の 見方によってはより深刻な倫理問題が持ち上がっているわけです.


もっとも そのお陰で当初の不法売買のほうは霞んでしまった形になってはいますが,これとても黄禹錫や盧ソンイルがシロ判定を受けたわけではありませんのでヨロシクとだけ申し上げておくことにして──.

言い換えれば,もはや事は単にライフサイエンスに於ける生命倫理云々の問題ではなくアカデミック・ハラスメントの問題に移って来ている,と(後述).
先に「記者会見の席で黄禹錫自身が卵子提供元について何と言っているか」を見ておきます.
以下,昨夜KBSで流れたというニュースから:


アンカー: 黄禹錫教授は研究員の卵子寄贈の事実を認め,この事実を早期に明らかにできなかったことが悔やまれると述べました.


どういった事情によるものなのか,李ミンヨン記者の報道です.


リポート: ソウル大学の黄禹錫教授は さる2003年,卵子入手の困難だった研究初期に,研究員2名が自らの卵子を寄贈しようと言ったが断ったと述べました.


それが昨年 Nature誌から確認要請を受けて初めて,研究員が卵子を寄贈していた事実を知るに至ったものの,研究員らの要請により これを公開しなかったと明らかにしました.



〈録画〉黄禹錫(ソウル大 碩座教授):「提供者1名がプライバシー保護を非常に強く要請していたこともあり,本人も知らぬ間に提供された研究員の卵子ゆえに倫理問題が提起される状況が憂慮され…」

(訳註:原文,おそらく記者会見の席上の発言か何かで 話し言葉ゆえかセンテンスの組み立てが少々変.卵子「寄贈」の「申し出」があったという以上,ここでは「知らぬ間に」は「提供された」ではなく「提起される」に掛かるものと読んでおくことにする)



黄教授は当時ありのままを語れなかった事が悔やまれると打ち明けました.



〈録画〉黄禹錫(ソウル大 碩座教授): 「国際的な目の高さ(訳註:常識とか社会通念のことだろう)に合わせなくてはならないという尊い真理を省察する余裕が私には無かったようです」



これに先立ち,保健福祉部は ソウル大獣医大(訳註:「獣医学部」か?)機関倫理審査委員会の調査結果を発表し,当時の卵子提供は法的倫理的に問題ないと明らかにしました.



〈録画〉崔ヒジュ(保健福祉部広報管理官): 「強要や懐柔によるものでなく,営利目的の代価関係に基づくものでもなかったため,倫理準則違背の問題は発生しないものと認められ…」



福祉部は今回の一件をきっかけに,卵子確保に関連した法規や倫理準則を明確化して行きたいと述べました.


KBSニュース・李ミンヨンでした.




黄禹錫曰く,「2003年頃に自分の部下の研究員2名が自発的に卵子提供を申し出たが,自分はこれを断った」.
曰く,「翌2004年になってNatureから事実確認を要請されて初めて卵子の出所を知った」.
更には,「その事実を知っていながら今まで隠していた」.
挙句の果てには,「その事実を隠していたのは卵子提供者本人の要望によるものだ」と.



黄禹錫の弁明を額面通りに受け取ってよいものかどうかに関して私が今ここで断定することは避けますが,
少なくとも例えば11/11に採り上げたPRESSianの記事などは示唆的.
同記事中の「情報提供者」というのはおそらく卵子を「自発的に」提供したという女子学生本人らの一人と見て間違い無さそうです.
本人の気持ちの整理が着くまで記者会見等は控えているとのことですので,
おそらく近日中に「卵子提供」がどのように行われたかに関する証言を提供者本人の口から聴けるでしょう.
その時が来れば上の黄禹錫の弁明の真偽も自ずと明らかになります.



いうまでもない事かも知れませんが,此処で私がどうしても引っ掛かるのは,卵子提供者の申し出というのが何処まで「自発的」なものだったのかという点.



一度でも大学の研究室に身を置いたことのある方なら容易に察しがつくかと思いますが,
大学の講座制というのは 最大限控えめにいっても徒弟制度といいますか,或る意味で物凄い人治主義の組織で,下っ端は教授には絶対に頭が上がらないように出来ている.
早い話が学位論文の査読も普通は自分の所属する研究室の教授に頼むわけですし,
学位取得後にポスドクなどの職探しをする際にも紹介状を書いてもらわないといけないなど,
とにかく生殺与奪の権は自分のボスに完全に握られていると云ってよい.
ですので,ボスとの関係がうまく行かなくなるというのは研究者の卵にとっては半ば致命的で,
研究者として一人立ちする上でとてつもなく大きなハンディを負うことになる.
下手をすれば「干される」.
ですので,いっそ丸っきり違う分野で一から出直す覚悟でも無い限りボスにはなかなか逆らえない事情というのがあります.
このことに関しては昨日たまたま見つけた面白いblogがありまして,筆者の方は現役の学生さんなのか 研究現場の雰囲気を実にうまく伝えていますが,そこで呼ばれている「アカハラ」「パワハラ」というのがそれ.
その昔,こんな便利な言葉の無かった頃には「センセイ政治」などと呼ばれたものです.



そういう状況下で「卵子が入手できなくて困っているので,君ちょっと提供してくれると助かるんだが」とやられて,下っ端が厭だと言えるか.



韓国に於ける卵子不法売買のニュースは日本にも伝わり 大きなショックを与えましたが,これとても所詮は海の向こうの話(無論,そうした不法売買に携わる韓国人らが日本の不妊女性を対象に商売をしているらしい点は他人事ではありませんからきっちり白黒つけてもらわないと困りますが).
その一方で,上のような「アカハラ」「パワハラ」「センセイ政治」に関しては残念ながら我が日本も決してお隣の国を笑っていられないお寒い現状にあることは知っておくべきでしょう.
大学のような閉鎖性の高い,外部の評価・点検・監視を受けにくい組織で 前述のように絶対的な権力が一人に集中していたら,そういう組織に腐敗するなと云うほうが無理でしょう.
自分の部下の女性研究者に卵子提供をそれとなく強要するなどといったエグイ話はともかく,
もっと人目に触れにくい事例なら日本の大学にも幾らでもあると思ったほうがよい.
例えばこういうセクハラ教授とか.



本当は保健福祉部との絡みについても書きたかったのですが別の機会に譲ります.



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by xrxkx | 2005-11-25 14:16 | ◆ 黄禹錫 / 卵子売買