日本の《木偶の坊外交》が招くもの: 中国艦船によるEEZ侵犯
 ここ数ヶ月来,中国艦船が 日本の排他的経済水域(いわゆる「200カイリ」,以下EEZ)内で 日本政府に無断で海洋調査を行うケースが急増しています.殊に軍所属の測量艦を動員するケースが目立つようになって来ました.

 ここ3ヶ月分の新聞記事から関連記事を拾ってみますと──

04/22
海洋調査船に関する日中実務者協議
日本側は中国に再発防止を要請
中国側は沖ノ鳥島を「島ではなく岩だ」と主張,日本側の要請に応ぜず

05/07
海洋調査船「奮闘7号」,魚釣島北北西63km
海保の警告に対し「本国の指示でやっている」と回答
※ 同船は中国国務院国土資源部所属

05/09
外相レベルで中国側に抗議する方針を固める
※ この時点で中国によるEEZ内無断活動は「去年から19件」

05/11
海洋調査船「向陽紅14号」沖ノ鳥島北280km
※ いつから調査中だったのか不詳
※ 但し同船は04/20~05/09は事前通報の上で活動(沖大東島南方) 海保が調査中止するよう警告,調査船側はこれを無視

05/12
「奮闘7号」,魚釣島北西65km
13日には海保が調査を中止するよう警告
「地震の調査をしている.いつまで続けるか分からない」との回答あり
※ 12日にも接触があったか? 当初は「8月10日まで続ける」と回答あった由

05/13
中国外交部「海洋調査は合法」
東シナ海EEZは「日中間に於ける争議海域」であるという理由
05/14
「向陽紅14号」,沖大東島南東約140km
※ この日か11日かのいずれかに 外務省から中国当局に抗議があった模様

05/15
「向陽紅14号」,石垣島東南東350km
外務省から中国当局に改めて抗議

05/下
日本側,中国による春暁ガス田の採掘を確認
北緯28度22分,東経124度56分,「中間線」から3~4kmの地点に施設
06/18
中国側の新たな採掘施設を確認
北緯28度31分,東経125度00分
「春暁ガス田群」を成すガス田の一つ「天外天」ガス田での採掘を始めたもの
06/21
日中外相会談(川口順子・李肇星)
中国側 「中間線は認められない/主張の相違は棚上げで共同開発も」
日本側 「まず開発状況に関する情報開示を」

06/22
「アジア協力対話(ACD)」閣僚会合が閉幕,「青島イニシアチブ」を採択
「エネルギー調査・開発に関する協力推奨」
「アジアにおける新しいエネルギー埋蔵地域の探求」
「パイプライン・備蓄施設などの建設に向けた協力」等を盛り込む

06/22
中川経産相,日中共同開発について「考えていない」
23日に同海域を機上視察する考え
細田官房長官「日本側海域での探査を検討」

06/23
「天外天」に新たな大規模施設を確認
06/25
海洋測量艦「東測226」,魚釣島南西37km
※ 中国艦船による事前通告なしの海洋調査は これが今年15件目
※ 軍艦による海洋調査が確認されたのは今年初めて

06/27
「東測226」,魚釣島北北東85km

06/29
細田官房長官「本来なら最初から協力して進めることが望ましい」
中川経産相「来月から日本側海域で調査を開始することに決めた」(07/07~10月頃)

07/01
中国政府,日本大使を呼び 日本側海洋調査開始に「強い関心」を表明
章啓月・外交部報道官も懸念を表明

07/06
海洋測量艦「南調411」,沖ノ鳥島西200km

07/07
日本側の海洋調査始まる
中国政府(王毅・外務次官),日本(駐中国大使)に正式抗議

07/07
海洋測量艦「南調411」,沖ノ鳥島南南西290km


 このように,中国艦船が活動している区域は 沖ノ鳥島近海()と東シナ海()とに大別されます.
 まず 東シナ海についてですが,日本と中国のEEZの境界線を どこに引くかを巡っては 日中間に主張の対立があります.つまり日中双方が「ここはわが国のEEZである」と主張している海域は オーバーラップしている.日本側は 双方の領土から等距離の「中間線」を境界とする立場.一方,中国側は 中国大陸の大陸棚全てが中国のEEZだとする立場.これだと 「中間線」に比べて 大幅に日本に近い場所に境界線が引かれることになります.
 中国船が入って来ているのは こういう場所です.5月13日の中国外交部のコメントで「争議海域だから海洋調査は合法」としているのは,つまりは「まだ いずれの国のEEZとも決まったわけではないので,要するに公海で調査をやっているのと同じことではないか」という言い分.
 また 沖ノ鳥島に至っては,この春あたりから 何と中国は「沖ノ鳥島は島ではなく岩だ」と言い出している.島でないのだから日本の領土とは呼べない,従ってその周囲に日本のEEZも存在しないので問題なし,という言い分.

 こうした中国の強引なやり口に対し,日本政府が どうしてもっと強硬な対抗措置を取らないのか,私には不思議でなりません.
 まず 東シナ海については,なるほど国連海洋法条約(中国は96年に批准)には大陸棚に関する規定がありますが,「争議海域だから何をやろうと勝手」というのは筋が通らない.「争議海域」だったらなおさら,同条約の定める国際海洋法裁判所での法的解決を図るべきなのであって,それ無しで勝手なことが許されるというなら 同条約も脱退するべきです.
 一方の沖ノ鳥島については,同条約第121条第1項に定めるように「島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、満潮時においても水面上にあるものをいう」のですから,沖ノ鳥島がこれに該当するのは明白.現に沖ノ鳥島が日本の領土でないなどと言い出す国は中国以外のどこにもありません

 また,中国側が「中間線」すれすれのところで採掘に取り掛かっている天然ガスですが,ガス田というものは 中国側から掘れば日本側にある分まで吸われて出てしまう構造ですので,中国側がすでに大規模な採掘を始めているなら 日本側としても 調査などと暢気な事を言わずに大至急採掘に掛かるべきです.
 その際,中国側が言うような「立場の相違を棚上げしての共同開発」などは論外です.日本側が最低限の前提条件として挙げている「海洋調査の結果に関する情報開示」にすら,中国側は応じていないのです.そんな状態で共同開発案を呑むことは,中国によるガス田採掘の既成事実作りを わざわざ後押しすることに他なりません.
(それにしても,外相会談のすぐ翌日に エネルギー資源開発協力を盛り込んだ「青島イニシアチブ」が採択されるようでは,まるで子供の使いではないかという感は拭えません.しかも,外相レベルで中国側に抗議する方針を日本政府が固めたのが5月9日,実際に外相会談が行われたのが6月21日というのは いくら何でも日本政府の対応は遅すぎる.それこそ川口外相が駐日中国大使を外務省に呼び付けるくらいのことはして見せないといけない.現に日本の駐中国大使は事あるごとに呼び付けられている)

 そもそも,自分たちは再三にわたって「争議海域」での無断調査活動を繰り返し,既に採掘まで行っておきながら,その対抗措置として日本が同様の調査を行うや日本大使を呼び付けて抗議するなどという,盗人猛々しい態度に対し,日本政府は見て見ぬふりを決め込んでいてはなりません.ああいう 常識もルールも通用しない国に対し,口先だけの抗議がどれほど無力なものであるかは,過去の事例を見れば明らかです.

 こうした態度に出るきっかけを作った原因の一つが,去る3月24日に中国人活動家が尖閣諸島に上陸した事件の折の 日本政府の軟弱な対応であることは,今や疑いの余地は無いでしょう.
 あのとき身柄拘束した活動家たちに関しては あくまで地方検察庁に身柄を送検し,日本の国内法に則って裁くべきでした.それを「日中関係に及ぼす悪影響を考慮」して 結局は強制送還という名の無罪放免という最悪の対応をしてしまった.あれでは「尖閣諸島は中国領」という相手側の主張を事実上受け入れたも同然ですし,それ以上に「ここまでやっても日本は手も足も出ない」と 近隣諸国にタカを括られることになります.実際,あの事件を境に 中国船舶による無断調査は激増している.あそこで断固たる措置を取っていた場合と比べ,どちらが「日中関係に悪影響」を及ぼしたでしょうか?

 最後に,近隣諸国による こうした傍若無人な振る舞いに 形ばかりの抗議を繰り返す限り,主権国家としての日本の権益も尊厳も 際限なく侵食され続けるでしょう.こうした事態を招いた原因は 言うまでも無く日本の惰弱な外交姿勢にあり,その惰弱さは 日本外交が軍事力という裏打ちを持たないことに起因しています.
 これだけの侮りを受けても 例えば海上自衛隊が指一本動かせないのは,他でもない「平和」憲法があるからです.「戦力を保持しないことが平和への近道」などという甘えた考えが どういう結末をもたらすかという,これは その分かりやすい見本だと言えるでしょう.憲法論議というものは,昨今の多国籍軍参加問題云々以上に,まず こうした危急の課題を解決するためにこそ行われるべきなのです.
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by xrxkx | 2004-07-11 12:24 | 時事ネタ一般