【靖國】野田佳彦氏の質問主意書に対する政府の答弁書について (2)

世間では組閣で盛り上がっていますが 追い駆けていられません.
中2日も空けてしまいましたが 前回採り上げた野田氏の質問主意書の件の続き.


ご覧戴ければお判りのように,この主意書は


  • 一.「戦犯」の名誉回復について
  • 二.極東国際軍事裁判について

の2つの部分から成っています.
前回言及したのは このうち質問1.6でしたが,
この質問に至るまでの 質問1.1~1.5への答弁に於いて
政府は所謂「A級戦犯」の名誉回復の経緯に関して野田氏の提示した確認事項を各論としては追認しておきながら,

「所謂『A級戦犯』──東京裁判の正当性如何がどうあれ 少なくとももはや犯罪人ではない──の祀られた靖國に首相が参拝することに何ら問題は無い」

と結論付けることは避け,専ら所謂「政教分離の原則」に照らして問題があるか無いかという論点で回答していたのでした.


言い換えれば,政府の答弁は野田氏の前半までの質問の最重要部分に答えていません.
他ならぬ その「政教分離の原則には反しない」なる部分だけが,
他の重要事項を全てスルーしたままで 産経をはじめメディアの注目を浴び,
一人歩きするに至ったわけです.


ここまでがおさらいで,今回は主意書の後半,即ち「二.極東国際軍事裁判について」を見て行きます.


※質問2.1


1 日本が受諾したポツダム宣言には、「戦争を起こした人間を裁く」とは一切書かれていない。また、弁護団の一人であった清瀬一郎弁護士は、「(ポツダム宣言の時点において)国際法のどこを見ても先進国のどこの法律でも『平和に対する罪』『人道に対する罪』という戦争罪など規定していない。だからA級といわれる戦争犯罪などは存在しない。もしあるとしたら、その管轄はどこにあるのか」と質問しているが、これに対してウェッブ裁判長は「いまは答えられない。あとで答える」と述べている。すなわち、「平和に対する罪」「人道に対する罪」に該当する「A級戦犯」とは、極東国際軍事裁判当局が事後的に考えた戦争犯罪の分類であり、法の不遡及や罪刑法定主義が保証されず、法学的な根拠を持たないものであると解釈できるが、政府の見解はどうか。

※質問2.1に対する政府の答弁:

極東国際軍事裁判所の裁判については、御指摘のような趣旨のものも含め、法的な諸問題に関して種々の議論があることは承知しているが、いずれにせよ、我が国は、平和条約第十一条により、同裁判を受諾しており、国と国との関係において、同裁判について異議を述べる立場にはない。



※質問2.2


「A級戦犯」が法学的に根拠を持たないとすれば、「A級戦犯」はそもそも戦争犯罪人に該当しないと解釈できるが、政府の見解はどうか。

※質問2.2に対する政府の答弁

極東国際軍事裁判所において被告人が極東国際軍事裁判所条例第五条第二項(a)に規定する平和に対する罪等を犯したとして有罪判決を受けたことは事実である。そして、我が国としては、平和条約第十一条により、極東国際軍事裁判所の裁判を受諾している。


上の両質問に於いて野田氏の掲げた主張に関しては今までに何度も触れて来た所ですので繰り返しません.
ここで何としても見過ごし難いのは,
日本が「裁判を受諾」という従来通りの見解──多分に「judgements」の誤訳による──から
政府が猶も一歩も踏み出そうとはしていないという点.
少なくともあの裁判が「法の不遡及や罪刑法定主義が保証されず、法学的な根拠を持たないもの」であることくらいは
日本政府が──今だからこそ──当時の連合国をはじめ支那・朝鮮・台湾なども含めた全世界に向けてきちんと主張して行くべきであり,
またその気になれば今の日本には十分それが出来る筈ですのに,
小泉首相の名で発表された今回の答弁書からは そうした意思は一片も読み取れないのです.



その点に直截に言及しているのが 最後の質問である質問2.4なのですが,質問に曰く,


 昭和二十六年十月十七日、衆議院平和条約及び日米安全保障条約特別委員会で、西村熊雄外務省条約局長はサンフランシスコ講和条約は「日本国は極東軍事裁判所その他連合国の軍事裁判所によってなした判決を受諾するということになっております」と答えている。また、同年十一月十四日には、大橋武夫法務総裁が衆議院法務委員会で、「裁判の効果というものを受諾する。この裁判がある事案に対してある効果を定め、その法律効果というものについては、これは確定のものとして受け入れるという意味であると考える」と述べている。
 一方、昭和六十一年に当時の後藤田正晴官房長官が、「裁判」を受け入れたとの見解を示して以来、現在の外交当局の見解も後藤田見解と同様となっている。
 判決あるいは裁判の効果を受諾したとする場合、裁判の内容や正当性については必ずしも受け入れないが、その結果については受け入れたと解釈できる。一方、裁判を受諾したとする場合は、日本は「南京大虐殺二十数万」や「日本のソ連侵略」等の虚構も含め、満州事変以来一貫して侵略戦争を行なっていたという解釈を受け入れたことになる。
 日本政府が見解を変えた理由は何か。


野田氏がここまで噛んでふくめるように説いて聴かせても,政府による答弁はこうです:

平和条約第十一条は、前段の前半部分において、我が国が極東国際軍事裁判所等の裁判を受諾することを規定しており、これを前提として、その余の部分において、我が国において拘禁されている戦争犯罪人について我が国が刑の執行の任に当たること等を規定している。このように、我が国は、極東国際軍事裁判所等の裁判を受諾しており、国と国との関係において、同裁判について異議を述べる立場にはない。政府としては、かかる立場を従来から表明しているところである。

訊かれた事に一つも答えていません.「見解を変えた」のではないと云う.つまりこれは,上で野田氏が提示した西村外務省条約局長・大橋法務総裁の発言などそもそも無かったのだと言っているに等しい.


前回も少し触れましたように,
「官邸の中の人が今のままでは納得の行く答弁など望むべくもあるまい」と私は初めから諦めておりましただけに,
はじめ産経の報道に触れたときには 率直に言って「産経め,都合のよい箇所ばかりトリミングしやがって」と思ったものでしたが,
「トリミング」の仕方に関しては実は朝日も同様だったことに 後から気づきました.
これ:



2005年10月25日18時43分

 政府は25日の閣議で、首相の靖国神社への公式参拝について「宗教上の目的によるものでないことが外観上も明らかである場合には、憲法第20条第3項の禁じる国の宗教的活動に当たることはないと考える」とする答弁書を決定した。民主党の野田佳彦国会対策委員長が提出した、小泉首相の靖国神社参拝に関する質問主意書に答えた。
 政府は「(私的参拝は)憲法との関係で問題が生じることはない」としたうえで、公式参拝に言及。「神道儀式によることなく追悼行為としてふさわしい方式によって追悼の意を表する」場合は国の宗教的活動に当たらないとした。
 政府は同時に、社民党の辻元清美衆院議員の質問主意書への答弁書でも、小泉首相の参拝問題に触れ、「一人の国民として参拝した」と説明。「参拝の適否について政府として立ち入るべきではない」とした。


一体何人の産経読者が件の報道にぬか喜びし,何人の朝日読者が色めき立ったかは知る由もありませんが,
最後に おまけとして上の質問主意書の件が支那人にどう使われたかを見てみましょうか.
25日の夜のうちに次のような記事が出ています:


Japanese government on Tuesday denied that Prime Minister Junichiro Koizumi's Yasukuni visit is unconstitutional.


According to the answer statement decided at a cabinet meeting, anyone, even if at the position of prime minister, has no relation or problem with the Constitution if he decides to pay a private visit to the Yasukuni Shrine.


"As long as the premier tell the public the war-dead honoring purpose of his Yasukuni visit and does not take part in religious ceremony there, his visit, even if an official one, does not violate the constitutional separation of state and religion."


The statement was in reply to the questioning of the main opposition Democratic Party of Japan that required the government to explain on Koizumi's Oct. 17 visit to the war-related shrine.


Koizumi paid his 5th Yasukuni visit a week ago despite constant opposition at home and abroad.


He has visited the Tokyo-based shrine, which honors 14 Class-A war criminals responsible for Japan's aggression against its Asian neighbors before and during the World War II, once a year since taking office in April 2001.



「公的参拝であっても合憲」論に的を絞って来ている辺り,
日本の国内報道の線を 面白いほど踏襲していますが,
私が面白いなと思ったのは太字部.
靖國の何たるかを全く知らない海外の読者に この記事を読ませて,

「ここに出て来る最大野党・民主党というのは,首相の靖國参拝に賛成していると思うか? 反対していると思うか?」

と尋ねてみたいものです.



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by xrxkx | 2005-10-31 19:59 | 時事ネタ一般