台湾モラトリアムを憂う
 今日読んだ聯合報の輿論調査によれば,「自分は台湾人だと思う」と答えた人は63%だったという.これを「63%も」と読むか「63%しか」と読むかは意見の分かれる所かも知れませんが,私は「まだ63%か…」と やや落胆.
 本省人と外省人の対立の引きがねとなった2・28事件の歴史的意義についても,「これ以上強調する必要は無くなった」とする人は74%で,前回の調査(97年)に比べて12ポイント増.一方で「歴史の教訓を風化させてはならない」という立場の人は13%に過ぎす,前回と比べて8ポイント減.

 このことを善意に解釈するなら,台湾が「いつの時代に台湾に住み着いたか」で色分けするのではなく,「台湾をこの先どうして行くべきだと考えるか」によって色分けされる社会になりつつあるということかも知れません.李登輝前総統が「新台湾人」論を言い出した動機も,もともとはそこにあるのでしょう.
 台湾建国論は,土着的ナショナリズムもしくは地域主義に立脚するのではなく,新大陸型の移民国家のそれに近い,専ら理念による国民の結び付きに基づいた国家像を模索して行かなくてはならないでしょう.それが出来ない限り,マレーシアやシンガポールの「華」人社会がそうであるように 畢竟支那人の謂う所の「大中華」主義から自由ではあり得ませんから.上のような輿論の潮流は,そうした国家像を組み立てて行く上で一定のプラス要因にはなるかも知れません.

 ただ,「省籍矛盾」(本省人と外省人の対立)を「新台湾人」論でまとめ上げようとしたことは,果して後々の台湾の為に正しい選択だったか.この点については熟考を要するでしょう.先日読んだニュースによると,台湾人の中には あろうことか かの2・28事件を「米軍による台湾人虐殺事件」だと思っている者すらいると言う.ことほどさように国府軍の台湾統治の実態は「中華民国」に於いてはありのままに語られることが少なかった.こういうところをうやむやにしたままでの「省籍矛盾」の解消など,果して実際にあり得るのか.

 私は当blogに於いては「台湾独立」なる表現を地の文中で用いるのを意図的に避けているのですが,それは言うまでも無く「台湾が中国から独立する」という言い方に多分に誤解の素地があるからです.
 台湾が「中華人民共和国」から独立してみようが無いのは自明の事です.「中華人民共和国」は歴史上ただの一度も台湾を統治したことがありませんから.
 同様に,台湾は「中華民国」から独立することも出来ないでしょう──少なくとも現在の「正名」路線によっては.昨年12/21の覚え書きに記しておいたように,日本の敗戦後の「中華民国」による台湾占領は連合国の占領統治の一環に過ぎず,それ自体は「中華民国」による台湾領有の法的根拠にはなり得ません.従って台湾人を「中華民国」の国民と見做すこともまた不法なのであり,「中華民国」の国民でない者が「中華民国」から独立するというのもまたナンセンスです.
 やや脱線.「台湾省」ではなく福建省に属している金門・馬祖に関しては この限りではないかも知れません.本来なら台湾民衆が85年のフィリピンに於けるマルコス政権打倒に似たパターンの革命でもやって,「中華民国政府」を金門島にでも追い出してしまい,あとは「大陸との統一」だろうと「反攻大陸」だろうとご自由にどうぞ,というのが 最も分かりやすい決着の付け方かも知れませんが,今回は そのことには深入りせずにおきます.

 先日行なわれた別の輿論調査によると「独立か,統一か」に関しては
  • 急進「独立」派…16%
  • 漸進「独立」派…10%
  • 永久的現状維持派…43%
  • 漸進統一派…13%
  • 急進統一派…6%
といった様子らしい.現状維持派が際立って多いのが一目瞭然です.このことは,国府軍による占領以来のあまりに長い期間にわたる「中国化」の結果,本省人でありながら「台湾人意識」というものを確立できずにいる人々が 如何に多いかを物語っています.
 台湾の輿論が「主権国家・台湾の建国か,支那との統一か」といった両極分化に至っていないことは,台湾民衆が自らの社会の帰趨を決する上で「省籍矛盾」以上の障碍になっているように見えます.現状維持論というのは,煎じ詰めれば
「名前が『中華民国』だろうと『台湾』だろうと,どうせ中身は同じなんだし」
とか
「今までも これでうまくやって来たんだし」
とか,あるいは
「こちらがわざわざ中共を刺戟しなければ今まで通りやっていけるんだし」
といった一種のモラトリアムでしかないように,私には思えます.むろん台湾の未来を選択するのは台湾人なのであって,外国人である私がとやかく言う筋合いの問題ではないでしょうが,但し,台湾の今後がどうであれ,海峡の向こう側の相手が日々変わり続けている以上,そうしたモラトリアムはそう長く続くものではないということを,台湾人は肝に銘じておく必要があるでしょう.

 話を「省籍矛盾論か,新台湾人論か」に戻します.
 本省人と外省人との間でいつか「歴史的和解」が必要であることは,私もこれを否定しません.
 但し,現時点で陳水扁総統が行なっている宋楚瑜との(あるいは馬英九とも?)連携というのは,立法委での多数派工作というその場しのぎにはなっても,陳総統率いる(今は党主席は降りたが)民進党の制憲・正名路線を根幹から危うくしかねません.
 かねてから制憲・正名路線を支持してきた人々は,陳総統の「現実路線」を「正名運動の後退」と見て失望するでしょう.逆に統一派の人々から見れば,陳総統が野党に接近する姿勢を見せたところで,別に民進党支持に回る理由は無いでしょう.結局 陳総統の対野党接近は 上で謂うモラトリアム層をさらに厚くする効果しかもたらさないのではないか.現に,上の輿論調査によると,急進「独立」派の16%という数字が 昨年の総統選直後に比べ2ポイント増であるのに対し,漸進「独立」派のほうは6ポイント減だそうです.このことは,当選後の陳総統の「国名は変更しない」「独立を住民投票に諮らない」などの所謂「四不一没有」公約や「中華民国=台湾」なる所謂「憲法一中」論が穏健改革派の失望を買った証だと言ってよいでしょう.

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 そんな中,今年も2・28を迎えます.1年前の「手護台湾」と題した「人間の鎖」行動があれだけの盛り上がりを見せた(予定の100万人を遥かに上回る220万人が参加)とは打って変わって,今年は 政府主催の記念式典と 台聯など急進派主催の集会(中共の「反分裂国家法」に対する抗議を最大の目玉とした)とが別々に行なわれる模様.
 2・28は「中華民国」が台湾人を虐殺した事件なのであって,主犯は「中華人民共和国」ではないのですから,本来2・28行動はその成り立ちから考えても 「中華人民共和国」という《外部の脅威》よりも先に まず現実に台湾を占領し続けている「中華民国」に矛先を向けたものであるべきでしょう.
 但し,上で述べたようなモラトリアム層にどうやって訴えかけ,どうやって彼らの「台湾人意識」を啓発して行くかが建国運動の成否を左右するであろう現状に鑑みれば,本来「省籍矛盾」の出発点であったはずの2・28を「新台湾人」論の出発点に転化する方策というのは ややアイロニカルではありますが意外とアリなのかも知れません.昨年の「手護台湾」の歴史的意義も そこにあったと言えるでしょう.それだけに,今年は「主役」が不在であることが 返す返すも悔やまれます.
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by xrxkx | 2005-02-28 03:33 | 台湾建国によせて