サッカーW杯予選 日朝戦:英紙の論調
 昨02/09のサッカー日朝戦,日本が辛くも勝利した由.今日はあちこちのサイトでその話を読みましたが,サッカーについては「手でボールを持ってはダメ」「網のところにボールが入ると得点」しか知らない私のような者でも 祖国の捷報に接するのは やはり素直に嬉しいものです.
 ただ,酔夢ing voiceの昨02/09の記事「日本対北朝鮮の試合を貶めたのは、誰だ?(2)」の中で 筆者の西村さんが次のように書いておられたのが チト気になりました.
それと、こんな馬鹿げた記事がスポーツニッポンに掲載されていた。共同電か独自の記事か分からないが、どのメディアが「強制連行」なんて史実を捏造する事を書いていたのか明らかにして欲しい。そして、この記事を書いた主語であるべき人間は、それをどう思ったのか?この記事では、まるでそのような英国メディアの報道に怒りを示しているとはとても思えないのだが・・・誰か、オリジナルのソースが分かったら教えてください。
 馬鹿げた記事が大好きなすいか泥棒が さっそくリンクを辿ってみると…なるほど,こりゃ馬鹿げておる.
英各紙も厳戒ぶり報道 ─スポニチ 02/09
 9日付の英各紙は、W杯アジア最終予選の日本―北朝鮮戦を前に、日本の警察が厳戒態勢を取り、ファンに平静な観戦を呼び掛けていると伝えた。デーリー・テレグラフ紙は「日本のサッカーファンはスタンドでの抑制された行動で知られ、このような厳戒態勢は極めてまれ」と報じた。
 ガーディアン紙は「スポーツと政治が正面衝突し、緊張が高まるのは必至」と分析し、イングランド代表が欧州に遠征した時のフーリガン対策と同じような厳しい警戒ぶりだとした。
 各紙とも北朝鮮の核開発疑惑や日本人拉致事件など両国の緊張関係を説明しているほか、第二次大戦中の日本による朝鮮人強制連行に触れた紙面もある。
 日本のメディアなら せめて「強制連行」に鍵括弧くらいは付けてほしいものです.こういう記事の書き方をするから,自称「被害者」の被害者意識のみに基づいた 何らの証拠提示をも伴わない一方的な主張が いつの間にか真実として広まってしまう.困ったものです.
 それはさておき,英紙に「強制連行」云々に言及している記事が本当にあるのかどうかについては興味を惹かれました──もっとあからさまに言ってしまえば近頃流行りの捏造報道ではないのかと疑ったということですが.私は英紙を紙で読める環境にないので,代わりにweb記事をGoogle先生に探していただきましたところ,いくつか引っ掛かって来ました.時系列無視で 読んだ順に挙げて行くと こんな感じ:
  1. "North Korea v Japan - it's so much more than a football match" ---The Guardian, 02/09
  2. "NKoreans hope football game with Japan will not fuel diplomatic row" ---world_soccer_news.com, 02/03
  3. " Football clash for Asian rivals" ---BBC, 02/09
  4. "Asian clash fails to settle old scores" ---BBC, 02/09
  5. "It's more than just a game as Japan takes on neighbours in World Cup 'proxy war'" ---Times Online, 02/09
  6. "Asia's WCQ Grudge Match Looms" ---Goal.com, 02/09
  7. "Grudge match fans play it cool" ---The Guardian, 02/10
  8. "N Korea looks to exert muscle on football field" ---Financial Times, 02/08
 さて,このうち「強制連行」に言及しているのは (1)と(2)の2本だけ.しかも(1)のほうは上のスポニチに出て来る「The Guardian」そのものです.(2)のほうは そもそも新聞社なのかどうかよく分かりません.
 一方で,(7)以外の全ての記事に「植民地」が登場します.但し,そのうち(3)と(5)だけは「北朝鮮がそう言っている」という書き方にとどめてありますが.

 (1)の「The Guardian」の記事には こうあります:

Their (訳註:北朝鮮選手団の) isolation will end inside the stadium. About 5,000 fans in the sell-out crowd of 64,000 will be members of Japan's 150,000-strong North Korean community, many of whom are descended from people forcibly brought to work in Japan during Tokyo's bloody 1910-45 colonisation of the Korean peninsula.


 また (2)には こう:

Japanese opinion polls show wide support for imposing economic sanctions to punish North Korea for allegedly lying to prove that eight kidnap victims were dead.

In turn, Pyongyang's official media have unleashed fury on Japan, deriding Tokyo for its bloody occupation of the Korean peninsula which ended with World War II.

Japan is home to about 700,000 Koreans, mostly descendants of people who immigrated or were forced to come as laborers during the colonial era.

The community was given a choice after the Korean War to choose nationality with North Korea, South Korea or Japan. It is difficult to know how many chose North Korea as the communist state has no diplomatic relations with Japan.

 何のことは無い,どちらも朝鮮人の被害者史観の丸写し.両国間で条約まで取り交わし,国際的承認を受けた上での「bloody colonisation/occupation」などというものが一体何処の世界にあるのやら.朝鮮では南北問わず日本統治時代のことを「日帝強占期」と呼びますが,上のbloodyナントカは その意味するところをそのまま英語に直している.
 しかも,(2)では 日本の朝鮮統治に触れておきながら,それが1910年に始まったことすら書いていません.「第2次大戦終結とともに日本の "bloody occupation" が終わった」とだけ記す背景に,戦前~戦中の日本をナチス・ドイツになぞらえる意図があるのは 言を待たないでしょう.

 (3)には
Meanwhile official propaganda in North Korea continues to rail against Japan's past misdeeds during its often brutal colonisation of the Korean peninsula between 1910 and 1945.
と,「植民地」は出て来るもののの それがあくまで北朝鮮の「official propaganda」であることを断ってあり,また「強制連行」に関する言及も特に見当たりません.
 逆に 拉致問題について最も詳しく触れていたのがこの記事で,先日の「500万人署名」にも言及し,それどころか記事中に囲みまで設けて
JAPAN'S MISSING
Megumi Yokota
Snatched in the '70s and '80s
Used as cultural trainers for N Korean spies
Five allowed home in 2002
Five children now freed from N Korea
Eight said to be dead, others missing

Heartbreak over Japan's missing
なる説明入りで 横田めぐみさんの写真を掲載していたのには 正直言ってやや驚かされました.(もっとも,「肝心のサッカーは何処へ?」という気もしないではありませんが…)

 その一方で,同じくBBCの(4)は,さわりの部分からして いきなりこれです.

Given Japan's bitter colonial legacy on the Korean peninsula, an ongoing crisis over North Korea's nuclear programme, and a dispute over the fate of Japanese citizens abducted by North Korea, their World Cup qualifier was always going to be about more than football.

 ただ この記事,試合当日の厳戒態勢の様子には触れているものの 日朝間の政治的緊張関係については殆ど言及しておらず,どちらかというと「北朝鮮と日本のどちらを応援したらよいか迷っている」といった在日朝鮮人のナショナルアイデンティティの揺らぎ云々に多くの行数を割いているという点で やや異質でした.「植民地」についても,本文中では
With a rematch scheduled in Pyongyang this summer, the North Koreans still have a chance to defeat their former colonial masters. And Japan's North Koreans will get another chance to puzzle over their cultural identities.
とあるだけ.但し,「だけ」だから「マシ」と言ってよいかどうかは別ですが.

 (5)では

Japanese politicians have pleaded with both sides to behave themselves. "Football is not politics," Junichiro Koizumi, the Prime Minister, has said. "I want the match to be enjoyed in a friendly atmosphere. I hope they will look for a good match as supporters who love soccer."

Few share such optimism. The match is overshadowed by politics and by the developing tension between Tokyo and Pyongyang. North Korea, the world's last Stalinist dictatorship, regards Japan as an odious colonist and a puppet of the American imperialist aggressor; the Japanese have always been perturbed by the presence of such a hostile and unpredictable neighbour so close to their western coast.

と,「植民地」には一応言及しているものの,その続きを読めば分かるように あくまで「北朝鮮が日本をそう呼んでいる」という書き方にとどめており,むしろ そういう隣国のせいで日本が迷惑しているといった論調なのには笑ってしまいました.「such a hostile and unpredictable neighbour」とは言い得て妙.

 次に (6).

Bad blood between the two countries goes back to the beginning of the 20th Century, though some would put the date hundreds of years earlier. In 1910, the Japanese formally annexed Korea, and thirty-five years of brutal hardship for the local population ensued.

After the war finished, Korea became divided and was soon embroiled in a bitter civil war. If the two protagonists had stopped fighting long enough and looked east, they may have seen a country undergoing reconstruction, a process that was accelerated as it became the production line for goods to aid the south. At the end of the war in 1953, it was the two Koreas who were down and out while their former colonial masters were well on their way to economic recovery.

 今回読んだ8本中,日本が朝鮮を「併合した (annexed)」と書いていたのは 実にこの記事1本だけ.それですら,日本の朝鮮統治を「brutal hardship」と断定的に位置付けている点で 他の記事と大差ありません.
 余談ですが,この記事,上の引用箇所の直後に
The Japanese have a grudge of their own as the kidnapping issue is still an emotive one at the other end of the Sea of Japan or the East Sea, depending on where you live.
なんて書いてあったりします.「depending on where you live」には苦笑してしまいました.

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 (7) と (8) は 上の6本とやや異質.

 まず (7).今回読んだ中では これが「政治との絡み」についての言及が最も少ない記事です.「日朝間の緊張関係を背景とした 当日のピリピリした雰囲気」の描写,短い記事のうち結構な比重を割いているのですが,それにしては この記事だけが「植民地」や「強制連行」に全く言及していません.代わりにこんな書きっぷりです:

About 3,500 police officers and security guards had been drafted in to keep the two sets of supporters apart amid fears that political tensions between the two countries over North Korea's cold-war abductions of Japanese citizens would spill over into the stands.

There were no reports of violence, and the presence of Japan's fanatical right wing was limited to a couple of elderly, bearded men chanting tired old slogans outside the stadium.

 日本の右翼も随分虚仮にされたもので,読んでいて「お気の毒感」満点なのですが,それはどうでもよい.むしろ引っ掛かるのは,どうも「The Guardian」紙は日本の対北輿論が強硬姿勢に傾いていることや経済制裁要求の高まりを「一部右翼人士の空騒ぎ」として描きたがっているふうに見えた点.何故あれだけの警備が必要だったのか,何故 あれだけの物々しい雰囲気にも拘らず どこかの国と違って暴動ひとつ起きなかったのか,といった点について,一般のイギリス人がこの記事を読んだだけでは多分全く分からないでしょう.
 ついでに この記事を読んでいると 何だか北朝鮮チームが随分かっこよく見えて来ます(笑).例えば

The impressive North Koreans outplayed Japan for much of the game but were unable to reward their colourful and noisy fans with a repeat of the glorious day in Middlesbrough in 1966 when they beat Italy to reach the World Cup quarter-finals.

The home supporters among the 63,000 crowd at Tokyo's Saitama stadium had booed the North Korean players and their fans before the game, but by the time the Stalinist state's national anthem was played at ear-splitting volume they were listening in respectful silence, even breaking into applause at the end.

 平気で「Tokyo's Saitama stadium」などと書いているところを見ると,この記事を書いた「Justin McCurry in Saitama」氏は どうやら日本の地理すらよくご存じないご様子ですが,それは措くとして,1966年以来 国際レベルで何ら自慢に足る戦績を挙げていないらしい北朝鮮が,本当に「試合の大半は日本を圧倒」したの? どうも日本にとって満足の出来る試合内容ではなかったらしいのは事実のようですが.この辺,サッカーの分かる方の意見を聴いてみたい所です.

 最後に (8).今回読んだ中で,この記事だけ韓国特派員が書いています.何で日本対北朝鮮の試合のことをわざわざ韓国から(しかも試合前に)レポートしているのか不明.さすがに韓国発ともなると,拉致問題については
Not only is the match being held amid increasingly hostile relations with Japan over the abduction of its citizens decades ago, but North Korea is seeking to regain its status as the top football team on the Korean peninsular(ママ).
と これだけなのに(もっとも,本来スポーツ記事としてはこれが普通なのかも知れませんが),その一方で
"There's always a political dimension when any Korean team plays Japan. There's a lot of importance in winning against the old colonial masters," said Paik Hak-soon, head of the centre for North Korean studies at the South's Sejong Institute.
と,韓国人お得意の「克日精神」がひょっこり顔を出しているあたり,驚くより先に あまりの斜め上加減に笑ってしまいました.記事を通して読むと「世界の第一線復帰に向けてガンバル北朝鮮」への後押しムードがほんわか伝わって来ます.ウリナラフィルター恐るべし.

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 所感.
  1. まず,これまで何度も言って来たように 自称「被害者」の証言以外に何らの証拠も伴わない 単なる朝鮮人の一方的主張である「植民地」だの「強制連行」だのは,北朝鮮自身が認めた,しかも未解決のまま現在進行形の国家的犯罪である日本人拉致へのカウンターアタックには 決してなりえません.そのことを,日本人はもっと堂々と世界に向けて主張すべきです.
    (そうした努力を日本人はこれまであまりにも怠って来ましたし,また そうすることにあまりにも引っ込み思案でありました.だから こうやって朝鮮人の言い分がそのまま英字紙に載る羽目になる.口数だけで朝鮮人に優勢に立たれてしまう.
     かの半島の中だけで何を言っていようが気にする必要も無いでしょうが,英語メディアに載るとなると影響力が桁違いです.ましてや,こうしたニュースを英文で読む読者の殆どは,日本と朝鮮との間の歴史については白紙の状態で読んでいるでしょうし.)
     それには,過去に何があったのか,何が無かったのかを徹底的に明らかにし,個々の史実が持つ歴史的意味を 私情や民族感情を交えることなく冷静に功罪両面から検証する態度が必要でしょう.
     その上で,もしも ナチによるホロコーストと質的に変わりない蛮行を 本当に日本が過去に行なったことが明らかにされたなら,──既に解決済みである戦後補償の問題を蒸し返したりするのは論外としても──そういうことがあったのだということを 当事国の国民である以上は 知識として知っておく必要はあるでしょう.
    但し,やっていない事まで「やった」と言われたままで押し黙ってしまい,主張すべき時に主張しないのは,単なる妥協であって 潔さとは違います.
  2. それから,拉致問題を 何故か「冷戦」の文脈の中でとらえようとする書き方の記事が目立ったのには,少なからぬ違和感を感じました.ヨーロッパ人だからこそ,ドイツ分断の あのイメージで朝鮮半島の現状を眺めてしまうのかも知れませんが,それだけでは 例えば「瀕死の金王朝を 何故韓国が必死に庇い支えようとするのか」といった問いひとつ満足に回答できないはず.その辺のところ,記者さんたちも 書いていて変だと思わないのでしょうか.

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by xrxkx | 2005-02-10 20:08 | 雑記