日本版「北朝鮮人権法案」・つづき
 昨日書いた民主党の対北人権法案のことが気になっているのですが,未だに思案がまとまらない部分を多々残したまま 前回の補遺のつもりで書き進めています.

 昨日も触れたように,民主党の法案は,あたかもアメリカのそれと相補的な性格を持つかのように装ってはいるものの,実際には北朝鮮の体制瓦解を促す目的のものであるかどうかは甚だ疑わしい.例えば「脱北者支援」と一口に言っても,例えばそれが これから脱北しようとしている者への手引きを指すのか,既に脱北して来た者への生活援助を指すのかによって かなり意味合いが違って来るでしょう.
 どうも私などには「脱北者受け入れは日本にお任せ下さい宣言」で米中韓をはじめ四方八方に良い顔をしてみせたがっているだけではないかという気がしてならないのです.これまで(特に先の参院選以後)民主党が米中韓などに対して行なって来た全方位迎合外交の数々を思い浮かべれば,今回の対北人権法案も その一環としてとらえないわけに行かないというのが正直なところ.

 それでも,実際に日本が朝鮮難民受け入れに積極姿勢を見せることが北の体制の揺さぶりにつながるなら,このような法案を検討する余地は大いにあるでしょう(というより本来そんなことは与党が率先してやるべき).おそらく金正日体制が存続する限り拉致問題の全面的解決は無いでしょうから.
 ですが,そもそもアメリカが本気で対北人権法によって「難民流出による北の体制瓦解」を狙っているのかどうかについて,私はもう暫く判断を待ちたいと思っています.本来なら北朝鮮国内での内乱誘発による体制崩壊を狙うか,あるいはイラクの場合と同じく武力行使による金正日排除に向けて動いたほうが 数段手っ取り早い筈だからです.
 前者の場合は中共の軍事介入を本気で警戒しなくてはならなくなるでしょうし,後者の場合にしてもイラク情勢の安定やパレスチナ和平での目途が立つまでは米軍は動きが取れないでしょうし,いずれにせよ人権法というのはそれまでの軽いジャブにすぎないかも知れない.

 とはいえ,アメリカや日本の人権法の有無に関らず,今後も脱北者は増加の一途を辿るでしょうし,韓国国内でも 今年7月の脱北者大量入国以来そのことを憂慮する空気は日増しに強まっているのを見ても分かるように,脱北者の処理を韓国だけに任せたくても それは事実上不可能でしょう(この点,もうひとつの要素について後述).
 ただ,万一 日本が脱北者らを国内に受け入れる事態に至った場合,最低限 個々の脱北者を難民として扱うか亡命者として扱うかの線引きは明確にしておく必要があるでしょう.難民の場合はキャンプに住まわせ,日本国内の移動および日本国内の個人・団体(総連・民団なども含め)との接触には一定の制限を課すこと,および北朝鮮の国情改善後は(…って,それがいつになるやらハッキリしないのが頭痛の種なのだが)帰国させるなり第三国に移住させるなりの措置を取らなくてはなりません.難民とも亡命者とも付かぬ あやふやな身分のままの朝鮮人を,無原則に日本国内に居座らせることは危険です.殊にそれが「もと在日朝鮮人」である場合には なおさらです.あるいは,難民を装った工作員が日本の表玄関から大手を振って入国して来る事態を招きかねないという危惧もあります.

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 ところで,私がつねづね愛読させていただいている「log」の 昨26日の記事「小泉外交の失策は今に始まった事ではない(5.22訪朝の再検証)」の中に,執筆者であるadoruk626氏が 同法案について触れておられる箇所がありました.とても興味深い内容でしたので引用させていただきますと─
 民主党がやる事には何でも文句をつけたがる狭量な人々は、彼らが作成した「人権法案」にまでケチを付ける。この法案には拉致問題の解決が盛り込まれているのは勿論だが、在外公館に逃げ来んだ脱北者の保護や、脱北者を支援するNGOへの資金援助についての条項も含まれている。これは非常に重要で、今後「拉致問題」を考えていく上では避けて通れない。人道上の問題だけではなく、拉致問題の「情報収集」や「早期解決」には必要不可欠である事は昨日も書いた。また脱北者の中には、もしかしたら日本人も含まれているかも知れない。今後増加する一方の脱北者問題に関し、日本だけが無関心でいて良い筈がない。
 まず「情報収集に不可欠」という点,これは全くもってその通りでしょう.その意味では,例えば韓国在住の脱北者が自己の体験した北朝鮮の実情について自由に語ることを許されていない昨今の韓国の風潮(とりわけ黄長燁氏などは現在も体の良い軟禁状態に置かれている)などを考えれば,私がかねがね言っている(昨日も言った)ような「脱北者は韓国に責任を持って面倒を見させろ」論ばかりではマズイか,という反省点はあります.
 ただ 脱北した(または これからしようとしている)人々を支援することの必要性は,彼らを日本国内に受け入れることの是非とは 一応切り離して考えるべきではないか.必ずしも「駆け込み寺」が日本国内になくてはならないという法は無いように思えます.実際,韓国政府などもそうした「駆け込み寺」をモンゴルや東南アジアなどに設ける方向で動いているという話を小耳に挟んだことがあります.

 次に「脱北者の中に日本人がいるかも」という点,これは確かにありそうな話で,これを考えると 現在のような「北朝鮮を抜け出すにも 差し当たり満州に入る以外に手が無い」という状態では,今後現れるかも知れない日本人脱北者が中共当局によって不法入国者として処理されることを防ぐ方策が是非とも必要でしょう.
 ただ,上述のように脱北者が一般的に逃げ込む先が中共の領土であることを考えると,そういう仕事がNGOレベルで出来ることなのかどうか,あるいはNGOに任せておいてよいことなのかという疑問はあります.2002年の瀋陽の事件(あの時は日本人脱北者はいなかったけれど)の折のように日本領事館が中共公安に白昼堂々踏み込まれる体たらくでは如何ともし難い.現に脱北支援NGOのメンバーが拘留されたりもしているのは 氏自ら後述なさっている通り.今後ああした真似をさせないよう外交ルートを通じて中共当局に厳しく注文を付けるのが先決であって(本当はその前に他ならぬ我が外務省に喝を入れないと行けないのでしょうけれど,それは今回の法案とは別の話なので措くとして),この辺は そうした対・第三国外交の面での条項が同法案に盛り込まれているか否か次第ということでしょうか.
 それから,人権法案から離れるのを承知で敢えて触れておくと,普通の国家ならどこでも こうした事態には政府の諜報ないし工作機関が動くわけですが,悲しいかな我が日本の場合はこれまでそういう備えを(絶無とは言わぬにせよ)あまりにもなおざりにして来ました.何年掛かってでも こういうところから手を入れないと.NGOにカネだけ出してやって,あとは民間人有志がやってくれ,というのではあまりにも心許ない.ミイラ取りがミイラになりかねない.その辺のところも併せて行う考えが民主党にあるのかどうか.この点も私が件の法案に胡散臭さを感じる理由の一つです.

 ところで,氏は次のようにも述べています:
 もちろん民主党が提出した法案については、中身を吟味していないので全面的に賛成とは言えない。しかし、こういう法案が議員から出てくる事は素直に喜びたいし、これだけでも金正日へのプレッシャーとなるならそれに越した事はないと思う。
 ちなみにNGOというとレインボーブリッヂのような団体しか思い浮かばない方もいるようだが、「北朝鮮難民救援基金」や、そこで活動する野口孝行さん(中国政府に8ヶ月間不当勾留された方)のような例もある。一概に「NGOは怪しい」とは(ママ)言いきってしまうのは偏見だ。
 官邸・外務省を問わず 行政府が対北政策に於いてあまりにも及び腰である現状を見れば,「こういう法案が議員から出て来ることは素直に喜びたい」というのは私も同感ではあります.どの程度「金正日へのプレッシャー」になるかは法案の中身を詳しく見てからの話ですので,今のところは何とも言えませんが….
 NGOについては私も昨日の記事で殊更レインボーブリッヂをとり上げたクチですので一言触れておいたほうが良いでしょうが,私も別に全てのNGOをインチキと見做しているわけではありません.私が言いたいのは「NGOへの資金援助が脱北者支援以外の目的に流用される隠れ蓑として『人権法』が利用されるような愚を犯してはならない」というだけの話.その辺は資金援助対象となるNGOの審査基準・審査方法の問題であって,法案そのものの中身とは別に考えたほうが良いかも知れません.

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 おまけ.「log」の場合,今回のように部分々々をとれば私と正反対の意見を書いていらっしゃることも多々ありますが,それでも私が平素から(と言っても読み出したのは9月頃からですが)彼のblogを愛読させていただいているのは,彼の掲げる「健全な愛国心」が─とりわけ拉致問題に関しては─煎じ詰めれば 隣人の痛みを自分の痛みとして受け止め,そのことを行動に反映させて行くことから出発しているという点に,一日本国民として学ぶべきものを感じるからです.…おぉ,珍しく今回は無理なく人を誉められたな(笑).

# それにしても上の「log」の記事中で引用されている「西村幸祐氏の評論」の部分,私も直撃弾のクチだな T-T
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by xrxkx | 2004-11-27 16:51 | 時事ネタ一般