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【イラク人質殺害】軽率さという美学(?)
 この話題,本当は書かないつもりでいました.遺族の方々の気持ちを思うと やり切れないものがありますが,殺された香田くんご本人には毛ほどの同情も湧きません.「ざまぁ見ろ」とも思わない代わりに「気の毒」という気持ちが一片も湧かない.殺害事件そのものに関する限り,書く為のモティベーションが皆無に近い.
 もはや言い尽くされた事を敢えて言いますが,香田くんは相当な馬鹿です.
 自分の死によって遺族の方々がどれだけの醜態を晒す羽目になるか(それでも今年春の三馬鹿のときに比べたら遥かに立派なものだったと思うが)などは考えてみようともせず,また「危険だから行くな」と忠告したという,「こんなことになるなら,あのときバスから引き摺り下ろしてでも止めておけば良かった」と語る人々が この先どれほどの良心の呵責に苛まれながら生きて行くことになるかについての想像力も無かったのでしょう.そうでなければあんな軽率な行動などなかなか出来るものではない.
 もっとも,単に馬鹿であることはそれ自体が罪だというわけではなく,ましてやどこの馬の骨とも分からぬ殺人集団なんぞに首を斬られなくてはならない謂われは微塵も無い.何にも増して憎むべきは他ならぬ殺人者たちであるのは自明のこと.何から何まで十把一絡げに「テロ」というレッテルを貼って片付けるのがフェアでないのと同様に,単にイラクで反米を叫んでさえいれば「レジスタンス」だと思い込むのもまた愚かな事です.

 で,今回私が 書く予定も無かったこんな文章を改めて書くことにしたのは,今年4月の三馬鹿事件の時と比べて,所謂「自己責任」論の人々の反応や 遺族の方々の対応に かなり《自制》が利いて来ていると感じた半面で,ああした無謀かつ無責任な行動を支持もしくは礼賛する動きのほうは むしろ勢いを増しているようなフシが散見されるからです.例えば─

香田さんは「戦争の真実を見ようとした勇敢な若者だということを知ってほしい。」 ─M. H. Square 10/31
 香田さんの事は、当初メディアは、まるで観光目的で行ってつかまったというようなニュアンスで報道していた。その影響だろうが「どうしようもないヤツ」という印象が広まっているようだ。
  (中略)
 しかし、このような見方に対して私はかなり違和感を持っていた。4月の事件を引き合いに出して考えれば、「まるで何も考えずに行った」ような印象を与える報道は、事件の責任を当事者個人にすべて押しつけてしまうように見えたからだ。
 で,このblogの執筆者氏が「どうやらそうではなさそうな報道がすこしばかり出てきはじめているようだ」として紹介している東京新聞の10/30付夕刊の記事では,香田くんのイラク入り直前まで彼と行動を共にしていたという「四ノ宮さん」なる人物を登場させ,
 四ノ宮さんによると、イラク入りを目指していた香田さんと別れたのは二十日午後六時すぎ、滞在していたクリフ・ホテルに近いバス停だった。「やはり戦争を体で体験しないと平和は語れないですよね」。そう言い残して香田さんはイラクに向かった。冒険心と同時に、不安ものぞかせるような複雑な表情にみえたという。
 「非常に好奇心旺盛な若者だった。たくさんのイラク人がなぜ殺されなくてはいけないのか。なぜ一般のイラク人までが米軍に銃を向ける状況になっているのか。そうしたことに興味を持っているようだった。それを確かめるためにイラクに行ったのだと思う」と四ノ宮さん。「自分に課題を課し、それを乗り越えようとしているような決意も見えた」という。
 四ノ宮さんは「彼は今、まるでただの観光旅行をしていたように言われているが断じて違う。戦争の真実を見ようとした勇敢な若者だということを知ってほしい。真実を見に行った、尊敬できる日本人だ」と話す。
と語らせています.
 どうも こういうことを書く人たちというのは,「いまイラクで何が起きているのか自分の眼で確かめたい」的な好奇心を 余程崇高な使命感か何かのように思っておいでのようですが,既にその点からして私には合点が行きかねます.隣家が燃えている時に取るべき行動は,プロの火消しが消火作業をし易いように協力するか,少なくとも足手纏いにならないよう気をつけることであって,素人の自分が率先して炎の中に飛び込むことではない.要救助者が1人増えれば,それだけ消火作業に携わる人々の負担は増すのです.それくらいのことを考えられないようでは一人前の大人とは言えないと思うのですが.
 筆者氏は こう続けます.
 これらの記事から、香田さんが、イラクがただの観光旅行で行けるような情勢ではないことを承知していることが推測できる。さまざまな問題意識をもっていて、それを確認するためにどうしてもイラクに行く必要があったと考えていたように、私は思うのだがどうだろうか。
 確かに、情勢判断が甘かったかもしれない。ミスがあったかもしれない。その点は、生還した後にきちんと総括をすればよい話だ。「見殺し」にする理由にはならない。
 政府だって何も「見殺し」にしたわけではない.何と言っても彼らには4月の三馬鹿をはじめ日本人人質らを救出して来た実績がある.今回も人質救出に向けて最大限の努力をしたでしょう.
 それに引き換え,救出された側はどうか.「きちんと総括」というのは,例えばこういうのを謂うのか.
郡山総一郎:「今回の男性も多少覚悟はしていたはずだが、原因を作っているのは自衛隊。自分は運よく解放されただけ。命を救うためすぐに撤退すべきだ」
安田純平:「現地で活動する以上、こうしたリスクを伴うことは本人も当然覚悟していたとは思うが、日本でも自衛隊の派遣継続を再検討してもいいのではないか」
渡辺修孝:「小泉首相が自衛隊は撤退しないと話したことは、人質は殺されてもよいと受け止められても仕方がない発言で、もっと配慮がほしかった」
特に郡山の発言などは「甘ったれるのも大概にしろ」と言いたい.馬鹿な民間人がノコノコと出掛けて行かなければ起きなかっただけの事件が,どうして「原因を作っているのは自衛隊」なのか.しかも「自分は運よく解放されただけ」と来た.自分を救出する為にどれだけ多くの人々の手を煩わせたかという自覚も何も無い.大した「生還後のきちんとした総括」もあったものです.

 容易に予想されるように,上記の文章に対して批判的なコメントも少なからず付いており,それらへの回答とも取れる文章を執筆者氏が翌11/01に掲載していました.そこには次のように書かれています.
 他者から強制されない、自発的意志に基づく行為というものには、何らかの「自分探し」的要素が入るものと考えています。だから香田さんの行為が「自分探し」だったかどうかというのは重要ではないと思います。
 大事なのは香田さんがどういう意志・目的を持っていたかということ。だから、当初流された「まるで観光」「ただの自分探し」が本当なのか、もっと違うことを考えていなかったのか、ということが私は気になったのです。
 「自分探し」などという恥ずかしい単語を自分のblogで使いたくなかったのですが,「香田くんのイラク入りの目的・動機が『自分探し』とやらであろうがあるまいが,そんなことは重要ではない」という点は まさしくその通りでしょう.だからこそ彼が「もっと違うことを考えて」いようがいまいが,そんなことは言い訳にも何にもならない.重要なのは彼の軽率な行為が惹き起こした結果だけです.皮肉なことに,上のような考え方の持ち主は,「目的は手段を浄化する」と考えているらしい点に於いて,まさしくテロリストの発想をそのまま踏襲しているようにも見えます.

 11/01の続編のほうには,香田くん支持派と思しき人物が 次のようなコメントを付けていました.
「迷惑」「迷惑」と語るひとは、具体的にそのひと個人にどんな迷惑がかかっているのでしょう。外務省に親しい友人がいて、そいつは夜も寝ずに働いている、可哀想だ、というのならまだしもですが。高潔にも政府の立場に成り代わって、あるいは税金の無駄遣いを許さないぞ!と日本国民を代表してくださって憤っているのでしょうか。勝手に代表されるのは余計なお世話です。
 例えば 天下の公道にゴミをポイ捨てして他人から咎められ,「大きなお世話だ.お前の家の庭に捨てているわけじゃあるまいし」とか何とか逆切れしているのと同レベルですよ,これでは.どうも こういうことを平気で書ける人々というのは,公というものに対する認識が 平常人とはどこかズレているように見えてならない.
 戦争に於ける勝利が個々の局地戦に於ける勝利の単純な総和でないのに似て,社会もまた単なる「個」の寄せ集めで出来ているわけではありません.すなわち,社会とは不特定多数の「個」が存在する場そのものを指すのではなく,そうした場に於ける単一の「個」とそれ以外の他者との間の関係性の総体なのです.そのことを十分に認識していれば,上のような「面識も無いのに」「お前に迷惑を掛けているわけではないだろう」といった甘えた考えは起きない筈なのですが.

 10/31の元記事は 次のように結ばれています.
 私は、香田さんが「馬鹿なヤツ」だとは思えないし、思わない。
 まだ情勢は何も変わっていない。香田さんの生還を心から望む。(無論、拘束されている全ての人質の方に対しても同じ思いだ。)
─私もまた,亡くなった香田くんが筆者氏と比べて特に「馬鹿なヤツ」だとは思いません.

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 おまけ.
 今回の事件で,遺族の方々の次に気の毒なのは,イラクにいる(または今後行くことになるであろう)自衛隊の皆さんでしょう.今回の事件は,結局は自衛隊引き揚げの潮時をますます先延ばししてしまうことになるでしょうから.
 いずれにせよ今回の事件をきっかけに撤退はあり得ません.…まぁ,はじめは「脅しに屈する形での撤退は望ましくない」と言っておきながら,人質殺害の報に接するや一転して政府批判を始めるような,どこぞの政党が政権でも取れば話は別でしょうが,その場合,「日本人を人質にさえ取れば日本政府はどんな要求でも呑む」という誤ったメッセージを 今回のザルカウィ一派のような狂犬集団に送ることにより,日本は今まで以上に多くの国民の生命を危険に晒すことになります.

◇ 参考 ◇
【忠告聞かずイラクへ】 イラクでまた邦人誘拐 【変わらぬマスゴミども】 ─ 徒然日記 「多事某論」 10/27
小泉批判で世界平和が訪れると思ってる馬鹿 ─Irregular Expression 11/01
香田君の両親が民主党らに「政治利用するな!」 ─Irregular Expression 11/02
by xrxkx | 2004-11-04 21:45 | 時事ネタ一般