【首都移転問題】韓国法曹界は違憲判決をどう見ているか
 私事であれやこれやアタフタしており(決してマイヤヒーばかり見て喜んでいたわけではないぞw),2日もお休みしてしまいました.
 インパクトの大きさの割に 当blogでは今まで一度も採り上げて来なかった 首都移転の話題.一昨日読んだニュースに ちょっと面白いのがありました.
法学者10名中6名,憲法裁「慣習憲法論」に同意せず
首都圏主要大学法学科教授20名 電話アンケート結果 ─メディアDaum 2004/10/22 20:50
 憲法裁判所が行政首都移転特別法の「違憲」決定の論拠として利用した「慣習憲法論」に,法学者の相当数が同意していないことが明らかになった.また,もし自分が裁判官だったら「違憲」の決定をすると答えた割合も「違憲ではない」とする回答とほぼ同じで,憲法裁の「8対1」違憲決定と大きく異なる様相を示した.

 22日,メディアDaumが首都圏主要大学の公法学・法哲学専攻教授ら20名の 憲法裁決定に対する見解を電話調査した結果,「ソウル=首都」という憲法裁の慣習憲法利用に同意しない人が全調査対象者の60%にあたる12名にのぼった.その半面,憲法裁の違憲論拠に同意した学者は7名(35%)だった.「憲法裁が政治的判断を下した」という主張についても,10名が同意の意思を表した一方「同意しない」という回答は6名にとどまった.「あなたが憲法裁の裁判官だったらどのような決定を行なうか」という質問には,8名が「違憲」と答えた半面で8名が「違憲ではない」とする立場を取り,五分五分の様相を呈した.だが,憲法裁決定に対する賛否とは別に「憲法裁決定は尊重すべき」とする意見が圧倒的に多かった.

○ 設問項目
  1. 「首都=ソウル」という慣習憲法を根拠に違憲決定を下した憲法裁の判断に同意するか.
  2. あなたが憲法裁の裁判官だったらどのような決定を行なうか.(却下,違憲,合憲,限定違憲,限定合憲)
  3. (2番についての論理的根拠を尋ねる質問)
  4. 憲法裁が「政治的判断」を下したという主張に同意するか,しないか.
  5. 憲法裁が憲法裁決定に同意するかどうかは別として,憲法裁決定を尊重すべきか否か.

◇ソンギュングヮン大
A教授(憲法学/匿名要求)
 1.不同意 2.却下 4.政治的考慮と法理的判断の複合 5.尊重
キム・ヨンス(公法)
 1.同意 2.違憲 4.法理的解釈 5.尊重
キム・ヒョンソン(公法)
 1.不同意 2.却下 4.ある程度政治的 5.ノーコメント

◇ソガン大
ホン・ソンバン(憲法学)
 1.同意 2.ノーコメント 4.法理的解釈 5.尊重
チョン・ハジュン(行政法)
 1.同意 2.違憲 4.法理的解釈 5.尊重

◇外大
キム・ヘリョン(行政法)
 1.同意 2.違憲 4.不同意 5.尊重
イ・ホジュン(刑法)
 1.不同意 2.違憲ではない 4.ノーコメント 5.尊重

◇キョンヒ大
チョン・テホ(憲法学)
 1.不同意 2.却下 4.政治的判断 5.憲法裁無用論も出かねない

◇高麗大
リュ・ジテ(行政法)
 1.同意 2.違憲 4.不同意 5.尊重
チャン・ヨンス(憲法学)
 1.不同意 2.違憲は正しい 4.政治的判断との疑いも受けかねない 5.尊重

◇スンシル大
B教授(憲法学/匿名要求)
 1.同意 2.違憲 4.不同意(民意を考慮した決定) 5.尊重

◇漢陽大
ユ・インハク(刑法)
 1.不同意 2.違憲ではない 4.政治的判断 5.尊重
キム・ジェボン(刑法)
 1.中立 2.立場留保 4.政治性はあるが憲法裁権限内 5.尊重
チョン・ギュウォン(刑法)
 1.不同意 2.違憲 4.憲法裁は政治的であるべき 5.尊重

◇国民大
イ・ジェスン(基礎法)
 1.不同意 2.却下 4.政治的判断 5.法的効力はあるが憲法裁は道徳的に大打撃を被るだろう

◇インハ大
キム・ミンベ(行政法)
 1.不同意 2.却下 4.憲法裁の政治性向をよく表している 5.尊重する必要なし
ウォン・ヘウク(刑法)
 1.不同意 2.違憲ではない 4.政治的判断 5.尊重

◇ソウル大
キム・ドギュン(法哲学)
 1.不同意 2.ノーコメント 4.全ての法律判断は政治的だ 5.ノーコメント

◇延世大
チョン・グヮンソク(憲法学)
 1.不同意 2.ノーコメント 4.政治論理 5.尊重

◇中央大
ミン・ギョンシク(憲法学)
 1.同意 2.違憲 4.政治判断がやや介入した 5.尊重

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1.不同意…12,同意…7,中立…1
2.違憲ではない…8(却下5名を含む),違憲…8,留保…1,ノーコメント…3
4.不同意…6,同意…10,その他…3,ノーコメント…1
5.尊重…15,憲法裁決定は問題…2,尊重の必要なし…1,ノーコメント…2

※補遺 「調査はどのように行なったか」より
 今回の電話アンケートは,メディアDaum取材班記者らが22日,首都圏の主要大学法学科教授らのうち法哲学および公法学分野を専攻する教授20余名に電話で尋ねたもの.全50余命の教授らに接触を試みたが,連絡がつかなかったり,話を聞くことは出来たが回答を避けたりした教授が30余名おり,厳密な意味での科学的調査とはやや距離があることをお断りしておく.記者らが取材に先立って電話アンケートを決定した大学は キョンヒ大,高麗大,国民大,ソガン大,ソウル大,ソンギュングヮン大,スンシル大,延世大,インハ大,中央大,韓国外国語大,漢陽大など12校.
 というわけで,なるほど憲法裁の「裁判官9名中8名が違憲と判定」とは随分違います.
 そもそも,ここにたびたび出て来る「慣習憲法論」というのが実際どういうものを指すのか,門外漢の私にはどうも見当が付きかねます.10/21付の朝日の記事「首都移転「違憲」の決定、盧政権に打撃 韓国・憲法裁判所 」によれば,今回の憲法裁判決は
  • 「首都=ソウル」であるのは明白.明文化はされていなくとも「慣習憲法」に当たる
  • 従って首都移転に当たっては憲法改正が必要
  • 憲法改正には国民投票を行なう必要がある
  • 従って国民投票無しで首都移転を行なおうとする同法案は国民投票権の侵害であり違憲
という論理らしい.つまりこの判決は最初の「慣習憲法」論にその正当性の全てを負っているということのようです.
 しかし この「慣習憲法」なるもの,違憲立法審査の根拠となり得る程の明確な適用範囲や違憲性有無の判定基準を持っているものなのでしょうか.過去に同様に「慣習憲法」論が適用された判例が無いかどうか,少し探してみる必要あり.
2004/10/26 追記: 22日付の中央日報の記事 〔憲法裁 違憲決定 法理的争点『注目』 ─「『慣習憲法』判断基準になるのか」に焦点〕(原文)によれば,今回の首都移転は「憲法裁が慣習憲法を引き合いに出して違憲性如何を判断した初の事例」である由.
 ついでに 今回のアンケート,「回答拒否」が随分多かったようですが,これは「もしも自分が憲法裁裁判官だったら」といったような仮定の質問には答えようが無いということなのか,或いは単に保身上の理由からなのか.

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 法案の違憲性,もしくは憲法裁判決の妥当性に関する 専門家の見解とは別に,私も昨日「首都移転問題をめぐるゴタゴタについて どういう見方をするか」を とある友人(韓国人)に尋ねてみました.私が常々読ませていただいている「散歩道」さんのところの 21日付の記事「三権分立はどこへ行った?」 中に登場するNaver韓国人らしき人物が言及していた「国民投票云々」について 少し詳しく訊いてみたいと思ったものですから.
 遣り取りは概ね以下の通り.
─ここのところ憲法裁がハンナラ党に有利な判決ばかりを下しているという不満は無いか.
「必ずしもそうとばかりは言えないと思う.現に盧武鉉大統領弾劾の意見書が提出(2004/10/26 追記:おそらく「議決(의결)」を「意見(의견)」とミスタイプしたものだろう.ともあれ弾劾案が国会で可決されたことを指す)された時も憲法裁はこれを却下している」

─国民の不満は主にどんな点に向けられていると思うか.
「盧武鉉大統領が大統領選当時に首都移転の是非に関する国民投票の実施を公約として掲げていたにも拘らず,それをしないまま国会で法案を通過させたことに対する国民の失望が大きいと思う.もともと大統領選当時にはハンナラ党も同法案に賛成の立場を取っており,そのため国会ではすんなり可決したようだ」

─大統領が国民投票を避ける理由は.
「先の総選挙でウリ党が大勝した時点で,首都移転に関しても既に国民の信を得たという判断をしたのではないか」

─今後 盧武鉉個人のみならず ウリ党全体の支持率低下に繋がる可能性は.
「相対的には先行きは不透明だと思う.何故なら逆にハンナラ党側も首都移転先候補地域住民らをはじめ多くの国民の反感を買っているから.いずれにせよ,今回の政争では与野党とも何ら得るものは無いだろう」
 おおっ,こんな冷静な韓国人もいるなんて :D
 彼によれば, 国民投票をやると言っておきながら やらず,法案の国会通過だけで事を運ぼうとする盧武鉉政権の態度を問題視する意見が多いようだとのこと.確かにこの点は,首都移転そのものへの賛否に関わらず 盧武鉉政権が 移転賛成派・反対派双方からの批判を受けるに至るに十分な失点だと言ってよいでしょう.
■ことば=韓国憲法裁判所

 最高裁判所とは別に、政治的波及効果が大きい(1)違憲審判(2)大統領や裁判官の弾劾審判(3)政党の解散審判--などを行う独立した裁判所として88年、設置された。

 大統領が任命する裁判官9人で構成され、うち3人は国会が選出、3人は最高裁判所が指名する。違憲や弾劾の審判では6人以上の賛成が必要。「一事不再理」が規定され、一度審判した事件は審理しない。最近では5月、国会が可決した盧武鉉大統領に対する弾劾を棄却した。

◇ 参 考 ◇
法務部「慣習憲法根拠にした違憲は予想できず」 ─朝鮮日報 10/22
「慣習憲法?初耳だ」盧大統領、首都移転「違憲」決定に戸惑い ─東亜日報 10/21
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by xrxkx | 2004-10-25 17:27 | 時事ネタ一般