「知る」と「分かる」の違い
 最近ニュースに上がって来て 随分話題になっているらしい「天動説ショック」ネタ.本当は書きたくなかったのですが.
(以下,引用した記事は 全てmore欄に控えがあります)

「天動説」の小学生4割=月の満ち欠けと月食も混同-国立天文台調査
 ──時事 2004/09/20 19:01

月の満ち欠け、分からない 危うい、小学生の天文知識
 ──共同 2004/09/20 20:06

小4~6年生の4割「太陽が地球の周り回っている」
 ──産経 2004/09/21 03:07

<天文知識>小学生の4割は「天動説」 天文台助教授ら調査
 ──毎日 2004/09/21 10:37

 文部科学省側のコメントも 昨日付で流れていました.

指導要領に問題ないと反論 天文知識崩壊で文科省
 ──共同 2004/09/22 20:15

<天文知識>「地動説は中学で教える」文科省次官が反論
 ──毎日 2004/09/22 20:26

 この話,新聞で話題になるかなり前から既にネットには上がっており,私も

● 「地球が回っているってホント?」 (林 公代)
 ──三菱電機 DSPACE 2004年 8月分 vol.3

という記事を先月読んで知ってはいました.当時はサッカー・アジア杯絡みの投稿ばかりしていて こちらの方は「何を今更,くだらん」と思い放っておいたのですが.

 上の各紙や三菱電機の記事,軒並み 少し前にあった「分数の計算ができない大学生」と同じノリですね.マスメディアというのは えてして こういうことを無闇やたらとセンセーショナルに書きたがるものですが,そこまで言うなら,こういう記事を書いている記者に逆に尋ねてみたい.
  1. あなたが立っている地面が 実は平面ではなく球面であることを,宇宙からの映像に頼らずに証明するには どうしますか.
  2. 上の問に答えられたとして,では 「地球」の直径をどうやって測定したらよいですか.
  3. 天動説を採択する限り説明の付かない自然現象を,あなたはいくつ挙げられますか.
  4. 「月の満ち欠け」について.では 逆に月面から地球を見たら どのように見える(筈である)か即答できますか.
上の記者さんたちが もしもこれらの一つでも答えに窮してしまったとしたら,むしろ その科学的素養に於いて自分たちは「天動説こども」にも劣っていると自覚したほうが良い.上の文部科学省側のコメント中で,事務次官が
「自転や公転を体系的に理解するのと、単なる知識として地動説を知っているのとは別」 (共同)
「理解できない段階で単なる知識として教えることが良いことか」 (毎日)
と言っているのは,何も子供相手に限ったことではない.「知っている」ことと「分かる」こととは違うのです.

 上の産経の記事に
縣助教授は、「今は月の満ち欠けの理由は小学校では教えていないが、四-五年生で理解できる。現行の学習指導要領の授業の範囲が“平らな地球”からの宇宙観にとどまり、地球が丸いことや自転、公転していることさえ扱わない」と問題点を指摘。そのうえで、「テレビなどでは宇宙の映像に触れる機会も多く、日常生活で得た知識と授業内容が結び付かない。理科の授業で太陽、地球、月の全体像を教えないことが理科嫌いを招く原因ではないか」と話している。
とありますが,当たり前です.まず何より先に「平らな地球」からの宇宙観とやらを十分に自分のものにしておいてからでなくては,その「平らな地球」からの宇宙観が どうやって崩れて行き,「地球は太陽の周りを回る天体の一つに過ぎない」という認識に至るのか,など分かる筈が無い.
 最も重要なのは,上の三菱電機の記事に出て来る
 なぜこんなことが? 今の小学校では「観察や実験できないことは教えない」という絶対的な基準がある。だから子ども達はテレビや図鑑などで「丸い地球」や、太陽を中心に惑星が回るイラストを目にするのに、小学校ではどちらも教えていない。「子ども達は矛盾を起こしているんです。」と縣さんは言う。外から得る情報と日常体験、学校で教わる内容がきちんとつながらない。
というくだりでしょう.だったら観察や実験をさせればよい.毎日の日の出・日の入りの時刻や方位くらい,小学校低学年の子供でも容易に観察/記録できる筈.そういうことを面倒がらずに子供が自分の手でやってみることが何よりの勉強になる.
 本に書いてあることをそのまま無批判に受け入れるだけの子供──および そうやって育った大人──を作らないことが肝心です.「信じる者は救われる」というのは宗教の世界だけでよい.疑うことを教えなくてはいけない.どんなにエライ先生の言うことよりも,自分の眼で,自分の手で確かめたことを信用し,それに基づいて自分の言葉で考え,その考えが正しいかどうか 更に自分の手で確かめてみて,…という繰り返しこそが科学の科学たる所以なのであって,単にそこから得られた知見だけを他人から聞いて《知った》だけで《分かっている》ようなつもりになっているとしたら,これくらい学問というものをナメた話は無い.

 ついでながら,
「ただ、知識の問題ならば、日常生活の常識としてどこで教えていくか。家庭や大人との会話などで教えていくという問題を、もっと考えることが必要とは思う」 (共同)
という文部科学省の言い分(勿論これは事務次官の個人的意見でしょうけれども)を「組織弁護」「身内に甘い」などと批判する向きも多数見られましたが,私は彼(彼女?)の言い分は極めて真っ当だと思いますね.単なる知識の寄せ集めなら,本でも読んで知ればよい.
 学校というのはそういう知識を子供に詰め込む為の場所ではなく,考える方法・道筋を身に付けさせる為にあるのです.



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※ 上で引用した記事の全文 控え

「天動説」の小学生4割=月の満ち欠けと月食も混同-国立天文台調査
 ──時事 2004/09/20 19:01
 「太陽は地球の周りを回っている」と思う子供が4割、月の満ち欠けが起きるのは「月が地球の影に入るから」と、月食と混同している子供も4割-。国立天文台の縣秀彦助教授や小学校教諭らが20日までに全国の公立小学校4~6年生を対象に調査したところ、こんなショッキングな結果が出た。
 縣助教授は21日から岩手大で開かれる日本天文学会で、「理科の授業で、地球が丸いことや自転、公転していることさえ扱わないのが原因」として、学習指導要領を改善するよう訴える。

月の満ち欠け、分からない 危うい、小学生の天文知識
 ──共同 2004/09/20 20:06
 小学生の約5割は月が満ち欠けする理由を理解しておらず、約3割は太陽が沈む方角を知らない--。天文現象に対する小学生の知識や理解は危機的状況にあることが縣秀彦国立天文台助教授らの20日までの調査で分かった。太陽が地球のまわりを回っている、との天動説が正しいと答えた児童も4割に達した。

 「ゆとり教育」のため学校で教えなくなったり、自然体験が減ったりしたことが原因とみられ、縣さんは理科教育の見直しを訴えている。結果は盛岡市で21日から始まる日本天文学会で報告する。
 調査は北海道と長野、東京、福井、大阪、広島にある計9校で、4-6年生の720人を対象に、複数の選択肢から正解を選ぶ形で実施した。
 月が満ち欠けする理由について「地球から見て太陽と月の位置関係が変わるから」と正しく答えた児童は47%にとどまった。

小4~6年生の4割「太陽が地球の周り回っている」
 ──産経 2004/09/21 03:07
国立天文台助教授ら調査「指導要領に問題」

 小学生の四割が「天動説」を信じている! 国立天文台の縣(あがた)秀彦助教授らが行った理科教育の実態調査で、小学校四-六年生の40%以上が「太陽が地球の周りを回っている」と思っているショッキングな実態が明らかになった。二十一日から盛岡市で開かれる日本天文学会で「理科教育崩壊」と題して発表する。背景について縣助教授らは「現行の学習指導要領は天文分野の学習内容が極めて不十分」と指摘し、早期修正を提言している。
 今年二月と四月に、北海道、長野、福井、大阪の四道府県でアンケート調査(四校、対象児童三百四十八人)を実施。「地球は太陽の周りを回っている」「太陽は地球の周りを回っている」の二つの選択肢から正しい方を選ぶ設問では、42%が“天動説”を選択した。
 縣助教授らは平成十三、十四年に広島市と東京都三鷹市の小学校で同様の調査を実施した。これらの結果を総合すると、「月の形が毎日変わるのはなぜか」という月の満ち欠けの原因を尋ねた設問で、四つの選択肢から「地球から見て太陽と月の位置関係が変わるから」と正しい答えを選んだのは47%。「月が地球のかげに入るから」と「月食」と混同した児童が37%にのぼったほか、「いろいろな形の月があるから」を選んだ児童も2%いた。
 六月に茨城県内の四校で行った同様の調査(対象児童七百三十三人)でも、40%が天動説を選んだ。また、「太陽の沈む方角」(東西南北から選択)の正答率が65%にとどまるなど、身近な天文現象に対して子供たちの理解が乏しい実態が浮かび上がった。
 平成十四年施行の指導要領では地上から見た太陽や月、星の動きの観察を重視する内容になっており、縣助教授は、「今は月の満ち欠けの理由は小学校では教えていないが、四-五年生で理解できる。現行の学習指導要領の授業の範囲が“平らな地球”からの宇宙観にとどまり、地球が丸いことや自転、公転していることさえ扱わない」と問題点を指摘。そのうえで、「テレビなどでは宇宙の映像に触れる機会も多く、日常生活で得た知識と授業内容が結び付かない。理科の授業で太陽、地球、月の全体像を教えないことが理科嫌いを招く原因ではないか」と話している。
     ◇
 ≪教える側の力不足≫
 芳沢光雄東京理科大教授(数学・数学教育)の話 「物事に興味や問題意識を持ち、原理原則を学び、視点を変えたり、論理的に考える作業が楽しい、面白いと多くの児童生徒が実感できていないのだろう。理数教育は国の礎で由々しい結果だ。子供の心に飛び込む授業は専門知識や人生経験に裏打ちされた教える側の力量や深みが伴う問題だ。『ゆとり教育』は問題だが、子供の興味、関心、考える力をどう養うかという取り組みを省略すると、学ぶ量が増えても知識を注入する『詰め込み教育』になるだけで、何の本質的な解決にもならない気がする」

<天文知識>小学生の4割は「天動説」 天文台助教授ら調査
 ──毎日 2004/09/21 10:37
 小学4~6年生の約4割は「太陽が地球の周りを回っている」と考え、半数以上は月の満ち欠けの理由を理解していないなど、基本的な天文知識を欠いていることが、縣(あがた)秀彦・国立天文台助教授らの調査で分かった。縣助教授は「現在の小学生の学習内容は極めて不十分」として、学習指導要領の修正を提案している。

指導要領に問題ないと反論 天文知識崩壊で文科省
 ──共同 2004/09/22 20:15
 小学生の4割が天動説が正しいと答えるなど天文の知識が崩壊している実態を明らかにした国立天文台の研究者の調査結果について、御手洗康文部科学事務次官は22日の定例会見で「地球の自転や公転についての学習は中学校で、きちんと体系的にすることになっている」と述べ、学習指導要領に問題があるとの見方に反論した。
 御手洗氏は「自転や公転を体系的に理解するのと、単なる知識として地動説を知っているのとは別」と強調。「中学校で観察を行い、天体の動きを理解させている。指導要領の全体構造を見てほしい」と語った。
 さらに御手洗氏は「ただ、知識の問題ならば、日常生活の常識としてどこで教えていくか。家庭や大人との会話などで教えていくという問題を、もっと考えることが必要とは思う」と述べた。

<天文知識>「地動説は中学で教える」文科省次官が反論
 ──毎日 2004/09/22 20:26
 小学4~6年生の約4割が「太陽が地球の周りを回っている」と答えた国立天文台などの調査結果について、文部科学省の御手洗康・事務次官は22日、「学習指導要領では、中学校で科学的にきっちり教えるようになっている」「理解できない段階で単なる知識として教えることが良いことか」と反論した。

● 「地球が回っているってホント?」 (林 公代)
 ──三菱電機 DSPACE 2004年 8月分 vol.3
 いきなりクイズです。
 「地球・太陽・月」の最も基本的な問題にアナタは答えられますか?
1. 地球が太陽の周りを回っているのですか。それとも太陽が地球の周りをまわっているのですか?
2. 人工衛星と同じように地球の周りを回っている天体はどれですか?
 一つ選んで下さい。
・太陽  ・月  ・火星 ・わからない
3. 月の形が毎日変わるのはどうしてですか?
・月が地球の影に入るから。 ・地球から見て太陽と月の位置関係が変わるから。
・いろいろな形の月があるから。 ・わからない


 DSPACEのコラムを読んで下さっている皆さんには簡単すぎましたよね? この問題は、国立天文台広報普及室の縣秀彦室長が、6都道府県、9つの小学校4~6年生計720名に行ったアンケートを参考にさせて頂いたもの。アンケートの結果は縣さんが「これほどとは思っていなかった」と愕然とするほど正解率が悪かった。

 まず問1。「太陽が地球の周りを回っている」と答えた小学生が42%。約400年前のガリレオ・ガリレイの時代、つまり地球を中心に天が回っている「天動説」が主流だった頃にさかのぼってしまったようだ。でも子ども達がこう答えるのも無理はない。小学校4年生の教科書では、まっ平らな地球の地平線が描かれ、太陽が動いていくような図が描かれている。地球が丸いことも、自転していることも、地球が太陽の周りを回っていることも教えないのだ。それがどんな理解につながるかと言うと、問の2。

 正解の月を選んだ児童は39%。太陽が24%、火星が27%もいた。1で天動説を選んだ生徒のほとんどが太陽か月を選んでいる。そして極めつけは問3。正解の「地球から見て太陽と月の位置関係が変わるから」を選んだ児童は47%。月の満ち欠けを学校で教えないから仕方がないとも言える。しかし「いろいろな月があるから」と答えた生徒が2%いた。JAXAウェブサイト「月探査情報ステーション」にも「(7つの月のうち)どの月に探査機を飛ばすの?」といった質問が寄せられるという。

 なぜこんなことが? 今の小学校では「観察や実験できないことは教えない」という絶対的な基準がある。だから子ども達はテレビや図鑑などで「丸い地球」や、太陽を中心に惑星が回るイラストを目にするのに、小学校ではどちらも教えていない。「子ども達は矛盾を起こしているんです。」と縣さんは言う。外から得る情報と日常体験、学校で教わる内容がきちんとつながらない。

 これは子ども達だけの話しではないのです。大人を対象にしたあるアンケートでも同様の結果が得られている。科学技術力は世界第二位というのに、大人の一般的な科学的知識が先進国で最下位というのはちと恥ずかしい。中高一貫校で理科教師を長く勤めていた縣さんは、実験主体に子供たちの理解を深めてきた経験から(生徒は喜んだけど保護者からはもっと受験に役立つ勉強をさせてほしいとクレームがきたと苦笑いされたが)、教え方にももっと工夫が必要だと、小学校と共同で「月の満ち欠け」などの指導法の研究を進めている。

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by xrxkx | 2004-09-23 13:09 | 雑記